23 校門へ走る紳士クンと、小高い丘の上を目指す好子
好子が目指して走っているのは、愛を語らう為の、
妄想世界の中の小高い丘の上にある大きな木だったが、
現実に紳士クン達が目指して走っているのは、エシオニア学園の校門である。
しかもそこで待っているのは、愛を語らう為の小高い丘の大きな木ではなく、
エシオニア学園で最も恐れられている木比篠先生と鎌井太刀副会長という、
修羅と羅刹のような存在なのだ。
そして抜け道から本筋の通学路に出ると、エシオニア学園の校門が見えて来た。
「見えた!急ごう委員長さん!」
校門までは約五十メートル。
ゴールが見えた紳士クンは、好子の手を一層ギュッと握り、
最後の力を振り絞って走るスピードを上げた。それに対して好子も、
「はいっ!」
と返し、懸命に紳士クンの後をついて行く。
しかしその表情は、恐怖と緊張でこわばる紳士クンとは正反対に、
幸福と恍惚に満ちあふれていた。
この状況下でも尚、好子の脳内では、
白馬の王子様に手を引かれて駆けるお姫様のような妄想が繰り広げられていたのだ。
この辺りの妄想力は、文学少女で紳士クンの正体を知る数少ない存在の、
迚摸静香にも劣らないかもしれない。
が、そのたくましい妄想力も、校門があと二十メートルほど先に迫り、
そこで待ち構える鎌井太刀副会長の姿がハッキリと視界に入った時、
霧のように儚く消え去ってしまった。




