13 紳士クンに安産祈願
「んだか?なら、こっちの魚さ食うだか?」
と、今度はおばあさんは鞄の方から、
カチカチに凍らせて真空パックに入れられた鯛のお頭を取り出し、
紳士クン達の前に差し出した。
「そ、それは、ちょっと学校には持って行けないので・・・・・・」
と、紳士クンが引きつった笑みを浮かべながら丁重にお断りすると、
おばあさんは少し残念そうに、
「都会でお礼さすんのは難しいべなぁ・・・・・・」
と呟き、懐からふたつのお守りを取り出し、それを好子と紳士クンに差し出した。
「んならこればもらってくんろ。
ホンマさ息子の嫁に買って来たんだが、あたごらにあげるべ。
これなら大丈夫だべか?」
「あ、はい、ありがとうございます。何か、却って気を遣わせてしまってすみません」
「うんにゃうんにゃ、お世話になったのはこっちだべ。ほんにあにがと」
好子の言葉におばあさんはそう言ってペコリと頭を下げた。
それに対して紳士クンも頭を下げ、お守りに目を向けてみると、
そこにはこう書かれていた。
『安産祈願』
(僕、産めないんだけど・・・・・・)
そんな中おばあさんは好子と紳士クンに手を振り、
その息子夫婦は何度も頭を下げながら去って行った。




