10 紳士クンの助け舟
(い、委員長さん、大丈夫かな?)
と、紳士クンは好子とおばあさんの元に歩み寄りながら心配したが、
中腰の状態から全く動けない好子の様子を察するに、
彼女がとてもあのリュックの重さには耐えられない事は、
火を見るよりも明らかだった。
なので紳士クンは、足早に好子の元へ歩み寄って声をかける。
「委員長さん、そのリュックは僕が背負うよ」
しかし威勢よくリュックを背負う事を引き受けた手前、
そう簡単に匙を投げる訳にはいかないという様子の好子は、
「だ、大丈夫、です!」
と声を漏らし、何とか気合で右足を一歩前に踏み出した。
が、やはりリュックの重さを支え切れず、大きく前によろめいた。
「わわっ⁉」
「危ない!」
このままだと顔から地面につんのめる所だった好子を、
紳士クンが正面に回り込んで抱きとめる。
それを見たおばあさんは笑いながら言った。
「あっはっは、やっぱし都会のめんこい娘さにゃあ、このリュックば担ぎきらんべな。
あにがとあにがと、後はおで(・・)が持つべさな」
そして好子が背負ったリュックに手をかけるおばあさん。
が、その時好子の顔が申し訳なさと情けなさとで泣きそうになっていたので、
それを見た紳士クンは、
尚更ここは自分が好子の代わりにリュックを背負ってあげなければと思い、
力強くおばあさんに訴えた。
「おばあさん!これは僕が背負います!任せてください!」
「へぇ、そうけぇ?都会の人ぁもっと冷てぇとばっかし思ってたけんど、
親切な人も沢山居るだべな。そったらお願ぇするべな」
おばあさんがそう言い、
自分でもこのリュックを背負って階段を下りるのは、
とてもできないと観念した様子の好子は、
大層申し訳なさそうにその場にリュックを下ろし、紳士クンに後を任せた。
「ご、ごめんなさい、乙子さん。私が不甲斐ないばっかりに・・・・・・」
「そんな事ないよ!後は僕に任せて!」
紳士クンは元気よくそう言い、
おばあさんの大きなリュックを背負ってひと思いに立ち上がる。
と、リュックはその見た目通りに相当に重く、
気を抜けば後ろにすっ転んでしまいそうである。
が、紳士クンは身も心も立派な(?)男の子。
この程度の重さのリュックを背負った所で、歩けないという事はなかった。




