9 想定外の重さ
(い、いつの間におばあさんの所に移動したんだ⁉)
と、紳士クンが目をひんむく中、おばあさんは嬉しそうにほほ笑みながらも、
遠慮がちな物腰でこう返す。
「へぇ、御親切にどうもあにがとうございますだ。
だども、この荷物はバリてぇ重いっぺがら、
あたごのようなめんこい娘さな、とても持てねぇべなさ」
一体どの地方の方言なのかは全く不明だが、
その言葉の内容を理解した様子の好子は、両拳をグッと握って快活に声を上げる。
「大丈夫です!私、こう見えても体力には自信がありますから!」
「そうだべか?んならちと、改札口さどごろまでお願ぇできますべか?
そこに息子夫婦さ迎ぇに来てくれてるはずだべから」
「はい!お任せください!」
おばあさんの申し出に好子は右の拳で自分の胸をドンと叩き、
おばあさんがしょっていたリュックを代わりに背負うべく、
おばあさんに背を向けて腰をかがめる。
それを見たおばあさんはまず両手に持った大きな鞄を地面にドン!
と音を立てて置き、しょっていた大きなリュックを背中から下ろし、
両手で抱えて好子の背中に添えた。
「バリてぇ重いっぺがら、気ぃつけてくんろ」
「はい!大丈夫です!」
と好子は言いながら、リュックの背負い紐に両腕を通す。
「んだら、両手ぇ離すべ」
「はい!」
好子が元気よく返事を返すと、
おばあさんは長い年輪が刻まれた両手をリュックから離し、
その瞬間、リュックの重さが好子の背中にズシンとのしかかった。
「ふぐっ⁉」
と、声を上げたのは好子。
そしてさっきの笑顔は瞬時にして消え去り、額から大量の冷や汗が吹き出した。




