8 音速の素早さ
数分後、紳士クンと好子が乗った電車が
『エシオニア学園前』駅に到着し、二人はそのホームに降り立った。
駅の時計は午前八時を示しており、いつもより遅い電車に乗ったとはいえ、
始業時刻には充分間に合う時間である。
家が遠い事もあり、普段はかなり早めに学園に着くようにしている紳士クンなので、
電車が1本や二本遅れた所で、遅刻するような事にはならないのだ。
なので紳士クンは余裕を持った心持で、
ホームから改札へ続く下り階段へ向かって歩き出す。
と、その時だった。
小柄な体格のおばあさんが、
自分の体よりも大きいのではないかと思われる大型のリュックを背負い、
両手には荷物がぎっしりと詰まっていそうな鞄を持ち、
プルプルした足取りで、階段から下りて行こうとしていた。
あんなに荷物を抱えているのなら、
ホームに設置されたエレベーターを使えばよさそうなものだが、
それがあるのはそこから更に二十メートル程離れた場所なので、
おばあさんはそこまで歩くより、目の前にある階段を下りようと判断したようだ。
しかしその足取りはおぼつかず、
下手をすれば足を踏み外して階段を転げ落ちそうな塩梅であった。
(何だか危なっかしいなぁ。ちょっと行って荷物を持ってあげなきゃ)
と紳士クンは思い、十メートル程先に居るおばあさんの元へ歩み寄ろうとした。
すると、
「おばあさま!そのお荷物、私がお持ちします!」
と、今の今まで紳士クンのすぐ隣に立っていたはずの好子が、
瞬間移動でもしたのかという程の素早さでおばあさんのすぐそばに駆け寄り、
親切心に満ちた笑顔でおばあさんに声をかけていた。




