5 困っている人を助けてあげたいスイッチの発動
(蓋垣さん、今日は撫子お姉様と一緒じゃないのね。
だからかなぁ?何だか少し元気がないみたい。
沈んだ表情で外の景色を眺めて、時々深いため息をついてる。
まさか、何か悩み事?そ、そりゃそうよね。
いつもにこやかで誰にでも優しく接している蓋垣さんだけど、
その分誰にも弱みを見せないし、
そういう事を相談できる相手も居ないんじゃないかな?
も、もしそうなら、私が少しでも力になってあげなきゃ。
同じ菫組のクラス委員長として。いえ、同じクラスの仲間として!)
この瞬間、好子の中で
『困っている人を助けてあげたいスイッチ』が入り、
さっきまで尻込みしながらその場に立ちすくんでいた好子は、
もう既に紳士クンの元へ向かってスタスタ歩き出していた。
自分の為に何か行動を起こそうとするとてんで(・・・)引っ込み思案な好子だが、
人の為に何か行動を起こす時の好子は、行動力の化身のごとく、
何の迷いもなく突き進んで行くのである。
そして、速き事風の如く紳士クンの目の前にたどり着いた好子は、
持ち前の人の良さと愛嬌に溢れた笑顔で、紳士クンに声をかけた。
「ごきげんよう、蓋垣さん」
「へ?あ、ご、ごきげんよう、いいんちょ・・・・・・
あ、いや、日都、さん」
悩み事に気をやっていた所に急に声をかけられ、
あたふたしながら挨拶を返す紳士クン。
おまけにいつも笑美や華子が好子の事を『委員長さん』と呼んでいるので、
好子の名字が一瞬出て来なくて焦ったが、
何とか思い出す事に成功し、ホッとしたように笑みを浮かべる。
そしてあたふたした事をごまかすように、紳士クンは話を続けた。
「日都さんも同じ電車で通ってるんだね。いつもこれくらいの時間なの?」
「そうなんです。
それで、蓋垣さんが同じ電車に乗っているって事に今日初めて(・・・)気がついて、
思わず声をかけちゃいました」
本当は割と以前から気付いていて、チラチラと紳士クンの事を眺めていたのだが、
それを知られると何だか気まずいので、その事は伏せておき、代わりにこう尋ねる。
「蓋垣さん、今日は何だか元気がありませんね?
もしかして、何か悩み事ですか?
もし、私でよければ、お話だけでも聞かせていただけませんか?」
「えっ・・・・・・」
好子にズバリな事を指摘され、目を丸くする紳士クン。そして、
(普段あまり会話をした事がないのにそんな事が分かるなんて、
流石委員長さんは人の気持ちを察するのが上手だなぁ)
と、好子の気遣いの細やかさにシミジミ感心した。
好子は野次馬根性ではなく、純粋に親切心で紳士クンにそう言っており、
その事を深く感じ取った紳士クンは、
思わず好子に自分の今の悩みを打ち明けてしまいそうになった。
が、まさか
『僕は本当は男なんだけど、
このまま女の子として女子校に通い続けていていいのかな?』
なんて相談を好子にしていい訳がないと、すんでの所でハッと気づき、
ブンブンと首を横に振ってこう返す。




