32 じいちゃんの怒りのゲンコツ
と、紳士クンが言い淀んでいると、そんな郁子を莉伊汰がグイッと押しのけ、
ズズイッと詰め寄ってこう言った。
「そんな事より、ああ、あのひねくれ者の令奈お嬢様をこんなにも従順にさせるなんて、
あなたは何て素晴らしい魅力の持ち主なのでしょう。
どうかこの僕を、あなただけの執事にしていただけないでしょうか?」
「うぇえっ⁉え、遠慮します!
僕は執事を雇うような立場の人間じゃないし、そんなお金もないし・・・・・」
莉伊汰のこれまた思わぬ申し出に紳士クンは面食らったが、
莉伊汰はそんな事はお構いなしの様子でこう続ける。
「お給料など要りません!
ただあなたのおそばに置いていただければ、あいたっ⁉」
その時莉伊汰の脳天に、至極重そうなゲンコツがお見舞いされた。
ちなみにそれをお見舞いしたのはいつの間にか背後に現れた世場守千庵で、
今はまるで別人のように怒りに拳を震わせている。
そしてそれを見た莉伊汰は恐怖におののきながら声を上げた。
「げっ⁉じいちゃん⁉どうしてここに⁉」
「じいちゃんではない!執事の時は世場守様と呼べといつも言っておろうが!」
「あ、はい、すみません世場守様。で、何でここが分かったのですか?」
「令太、いや、令奈お嬢様の携帯の位置を辿って来たのだ!
それよりこの有様はなんだ⁉お前がついていながら不甲斐ない!」
「いやぁ、色々不測の事態が重なっちゃいまして、あはは・・・・・・」
「言い訳無用!今から屋敷に戻り、
執事としての心得を一から叩きこんでやるから覚悟せぃ!」
「えぇっ⁉それだけは勘弁してよぉ。
じいちゃんの説教は長くてくどいんだよぉ・・・・・・」
「何が長くてくどいじゃ!少しは反省せんか!」
そんな感じで世場守千庵と莉伊汰がワイワイ言い合っている様子を、
紳士クンは苦笑いを浮かべながら眺めていた。
(とりあえず、これで一件落着って事で、いいん、だよね?)
とりあえず、これで一件落着という事で、いいと、思う。
こうして『日曜日の決闘後の反省会』も無事に終わり(?)、
集まった面々はそれぞれの居場所へと帰って行ったのだった。
そして紳士クンの不本意な日々は、これからも続いて行く。
頑張れ紳士クン、負けるな紳士クン。




