18 莉伊汰と郁子
そんな中、廃倉庫におよそ似つかわしくない、
メイドの集団が居るのに気付いた郁子が、
肩に金属バットを担ぎながら声を上げた。
「あぁん?アタイ達より先客が居るじゃないか。
しかもこんな所にメイドの集団ってどんなシチュエーションだよ?
っていうかあんた、こんな所で何やってんだい?
まさか、そのひらひらした格好のお姉ちゃん達に捕まったって言うのかい?」
それに対して伴兆太郎はバツが悪そうにソッポを向き、ぶっきら棒にこう返す。
「その通りだ」
「かぁ~っ、エシオニア学園の喧嘩番長ともあろう男が情けないねぇ。
これじゃあせっかくあんたの恋敵を捕まえて来たのが水の泡じゃないか」
呆れたように頭をかきながら郁子がそう言うと、
その正面に莉伊汰が進み出て、おどけた口調で口を開いた。
「おやおや?そこに見えるのは僕らが主の令奈お嬢様ではありませんか。
そんな所で何をしているのです?
まさかそちらの物騒な方々と、ツーリングでもなさっていたのですか?」
それに対して令太は至極機嫌が悪そうに顔をしかめ、ツバを吐きかけるようにこう返す。
「まあ、そんな所だ」
「何とまぁ、凄木家の御令嬢である令奈お嬢様が、
こんな方々とおつるみ(・・・・)になっているとは嘆かわしい限りですね。
これでは僕らが苦労してあなたの恋敵をここにお連れした事が、
水泡に帰するというものです」
莉伊汰はわざとらしく右手を額に当てながらそう言うと、
その莉伊汰に、郁子が笑みを浮かべながらも、
その声色に露骨な敵意を含めながらこう言った。
「とりあえず、あんたらが捕まえているそこの男を解放してもらおうか。
さもなきゃ少々、いや、相当に痛い目に遭う事になるよ」
すると莉伊汰も笑みは絶やさないながら、その声に明らかな憎悪を込めてこう返す。
「ならばそちらもウチのお嬢様を解放していただけますでしょうか?
さもなくばいささか、いえ、したたか痛い目をご覧いただく事になりますよ」
そして莉伊汰と郁子は互いに前に進み出て、
穏やかならぬ視線の火花を散らしながら睨みあう。
そんな中令太は、莉伊汰に言った。
「莉伊汰!もういい!そこのホモ野郎を解放してやれ!」
しかし莉伊汰は大きく目を見開いて郁子を睨みつけたままこう返す。
「残念ながらその御命令には従う事ができません。
それにはまず、令奈お嬢様をこちらに返していただく事が先決です」
すると伴兆太郎も郁子に向かって言った。
「リーダーさんよ!俺の事はいいから、
そのはねっ返りのお嬢様を解放してやってくれ!」
しかし郁子は眉間に深いシワを刻みながら莉伊汰を睨みつけてこう返す。
「それは聞けないお願いだね。
そんなら先に、兆太郎をこっちに返しな。話はそれからだよ」
と、その時、『プツン』と、莉伊汰の中で堪忍袋の緒が切れた。




