15 第一巻で令が使ったヤツ
今にも噛みつきそうな迫力で伴兆太郎がそう吠えると、
莉伊汰は肩をすくめて言った。
「やれやれ、あなたもウチのお嬢様に負けず劣らず、
蓋垣様という方に御執心なのですね。
一体どんな方なのか、僕もお会いしてみたいものです。
ですが今日の僕は、
あなたを夕方までここに閉じ込めておけという命令を受けています。
もし、どうしても大人しくしていただけないというのであれば、
夕方までグッスリ眠っていてもらいましょうか」
そして胸ポケットから白のハンカチを取り出し、
内ポケットから出した小さなスプレーを、それにシュッと吹きかけた。
「この匂いを嗅ぐと、しばらくの間ぐっすり眠っていられますよ」
莉伊汰はそう言うと、その怪しいスプレーが吹きかけられたハンカチを、
伴兆太郎の口元に持って行こうとした。
「ふざけんな!誰がそんな怪しいモン嗅ぐかよ!」
伴兆太郎はそう叫んで立ち上がろうとしたが、
莉伊汰は見た目に似合わぬ腕力でその肩を押さえつけ、再び一斗缶の上に座らせた。
「大人しく、ですよ、兆太郎様。
そうすればあなたに痛い思いはさせません。
それとも、少し痛い方がお好みでしょうか?」
莉伊汰はそう言ってやけに妖しい笑みを浮かべ、
右手に持ったハンカチを伴兆太郎の口元に近づけて行く。
両手を後ろで縛られ、肩を強い力で押さえつけられている伴兆太郎に、
もはやそれを回避する術はなかった。
そんな伴兆太郎に、莉伊汰は赤子を眠りに誘うような優しい口調で言った。
「さあ、身も心も楽にしてください、いい子だから。
そうすればきっと、とても気持ちよく眠る事ができますよ」
そしてハンカチが目の前に近づくにつれ、
伴兆太郎の鼻にほのかに甘い香りが漂い、
(※ちなみにこれは、第一巻の第一話で、
令が紳士クンを眠らせる為に使った香水と同じモノです)
急激な睡魔に襲われた。
どんな痛みや苦痛にも、
その強靭な肉体と精神力で耐える事が出来る伴兆太郎も、
この睡魔に抗う事は出来ず、徐々に瞼が閉じて行き、
それと比例して意識も遠のいていく。
そして完全にその瞼が閉じかけた、その時だった。




