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紳士クンの、割と不本意な日々Ⅴ  作者: 椎家 友妻
第五話 紳士クンと、日曜日の決闘
133/158

8 カミナリ族ではない

 「おや?」

と世場守千庵が声を上げ、

「どうした?」

と令太が問いかけてフロントガラス越しに車の前方に目をやると、

そこで一台のバイクが、

この車の前で大きく蛇行をしながら走っているのが目に入った。

そのバイクはロケットカウルや三段シート、

大きく反り上がったマフラー等の違法改造は全くされてはいない、

健全なノーマル仕様だが、

それを操る人間は真紅の特攻服に身を包み、

背中には金の糸で『烈怒刃威悪憐(れっどばいおれん)()』と刺繍が施され、

真っ赤に染め上げた長い髪を左の高い位置でひとつにまとめ上げ、

しかしその上からちゃんとヘルメットを装着し、

いかにもパラリラやりそうなオーラを放ちながら、

世場守千庵と令太が乗る車の前を蛇行運転している。

そう、彼女は昨夜伴兆太郎に依頼され、

令太を紳士クンの家に行く事を阻止する為にやって来た、

暴走族の烈怒刃威悪憐主(れっどばいおれんす)のリーダー、()()郁子(いくこ)であった。

しかしまだ状況が飲み込めない世場守千庵は

 「な、何だか物騒な方が前を走っておいでですね」

 と言い、右側の車線からそのバイクを追い越そうとしたが、

右側の車線には郁子と同じ格好をした人間が乗るバイクが並走しており、

車の後方にも、もう一台のバイクが適切な車間距離を保ちながら追走していた。

 すなわちこの車は烈怒刃威悪憐主のバイクに完全に包囲されており、

それを察した世場守千庵は、恐れおののいた声を上げた。

 「ど、どうしましょう。

わたくし達は、どうやらカミナリ族の方々に取り囲まれてしまったようです!」

 世場守千庵は世代的にそう表現してしまったが、

取り囲んだのがカミナリ族だろうがローリング族だろうがだんご大家族だろうが、

この状況が何ら変わる事がないのだけは確かだった。

そんな中郁子の運転するバイクがハザードランプを点灯させ始めた。

 「車を止めろって事か・・・・・・」



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