7 セバスチャンならぬ、世場守千庵
そして令太は長年凄木家に執事として仕える世場守千庵
(※世場守が名字で千庵が名前)
の運転する黒のリムジンの後部座席に足を組んでドッシリと座り、
外の景色を眺めながら紳士クンの家へと向かっていた。
(莉伊汰の奴、うまくあのホモ野郎を閉じ込める事ができたのか?
ま、あれだけの数のメイドを送り込めば、
流石の喧嘩バカも、どうする事もできねぇだろうが)
そんな事を考えながらにわかに口の端に笑みを浮かべていると、
その前で運転をしていた白髪の世場守千庵が、
「ほっほっほ」
と、朗らかな笑い声を上げた。
「ん?何がそんなにおかしいんだよ?」
特に気を悪くした訳でもなく令太がそう尋ねると、
世場守千庵は嬉しそうに目を細めながら、優しい声色でこう返す。
「いえ、こんなに楽しそうにしていらっしゃる令太ぼっちゃんを見るのは、
初めてな気がするもので。
今日お訪ねになるご友人は、よほど令太ぼっちゃんと懇意な仲の方なのですね」
するとそう言われた令太は『ぼんっ』と音が聞こえそうなくらいに顔を赤らめ、
身を乗り出して世場守千庵に反論した。
「バカ!懇意とかそんなんじゃねぇよ!
ただあいつは、今の学園で俺と同じような境遇に居るから、
それでちょっとばかり、気が合うってだけだよ!」
それに対して世場守千庵は、朗らかな笑みを崩さぬままにこう続けた。
「それは、令お嬢様もお気に入りのあのお方の事ですね?
名前は確か、蓋垣乙子様、でしたか」
「そうだよ。本当は紳士って言うんだけどな。
あいつも俺と一緒であのバカ姉貴にハメられて、
男の身でありながら女子校に通う事になった、不憫な奴なんだよ」
「令お嬢様にも、何かお考えがあっての事でしょう」
「そうだな、自分の欲望を満たす為だけの、身勝手なお考えだろうけどな」
「何はともあれ令太ぼっちゃんに、本当に心を許せるご友人ができて、
世場守は心底嬉しゅうございます」
「いいから運転に集中しろ!
ちゃんと約束の時間までに、蓋垣の家に着くようにな!」
「御意のままに」
照れを隠すように令太がそう叫ぶと、世場守千庵は嬉しそうにそう言いながら、
少しばかりアクセルを踏み込もうとした。
と、その時だった。




