3 実は二人は顔見知り
それに対して莉伊汰は、その言葉の槍を軽くいなす(・・・)ようにしてこう返す。
「残念ながらそれはできません。
何故なら僕はあるお方の命令で、
あなたをある場所に閉じ込めておかなければならないので」
それを聞いた伴兆太郎は生まれて初めてというくらいに、
敵意と殺意をむき出しにし、
獲物に襲い掛かる虎のような目で莉伊汰を睨みつけたが、
ふと何かに気付いたように、毒気の抜けた声でこう言った。
「よく見りゃあんた、あの時手助けしてくれた人じゃねぇか。あの時は世話になったな」
『あの時』というのは、伴兆太郎が始業式の日に、
エシオニア学園の不良共に取り囲まれた際、
逆にその不良共をボコボコにした時の事であるが、
実はそれをやったのは伴兆太郎だけではなく、
偶然そこに通りかかった莉伊汰が、伴兆太郎に加勢をしていたのだ。
彼らは同じ一年であるが、クラスが違うので、顔を合わせるのはその時以来だった。
そんな久し振りの再会の中、莉伊汰は愛想のいい笑みを浮かべて言った。
「いえいえ、手助けという程の事もしてませんよ。
別にあの時僕が加勢しなくとも、
あなたは一人であの不良共を全員ボコボコにできたでしょうし」
「それはどうだかな。それよりそこをどいてくれねぇか。
さっきも言ったが、俺は今から行かなきゃいけねぇ所があるんだ」
さっきよりも幾分和らいだ口調で伴兆太郎はそう言ったが、
それに対する莉伊汰の答えはやはりこうだった。
「僕もさっきも言いましたが、残念ながらそれはできません。
僕はあるお方の命令で、あなたをある場所に閉じ込めておかなければならないので」
「そのあるお方ってのは、凄木令奈の事かい?」
「いかにも」
「ハッ、あんたがあの女の手下だったとはな皮肉な話だな。
それで俺をここで足止めして、自分だけ蓋垣と一気に距離を縮めようって魂胆か。
いかにもあの女らしいコスイ考えだ」
実は伴兆太郎自身もそれと全く同じコスイ考えで、
令奈に郁子達を差し向けているのだが、
それは脚立を使わないと届かない程に高い位置にある棚に上げ、
拳の関節をポキポキ鳴らしながら言った。
「分かっていると思うが、俺はどうしても蓋垣の家に行かなくちゃならねぇんだ。
それを邪魔するってなら、例え恩人のあんたでも、
張り倒してここをまかり通るまでだ」
そんな伴兆太郎の敵意に臆する様子もなく、
莉伊汰は余裕すらうかがえる笑みを浮かべながらこう返す。
「あいにく僕はここであなたとタイマンを張りに来たのではありません。
僕はあくまで忠実に、ぼっちゃん・・・・・・
あ、いえ、お嬢様の命令に従うだけ。
なのであなたの意志には関係なく、僕について来てもらいます」




