2 番長と執事
一方その頃、伴兆太郎は絶対に約束の時間に遅れないよう早めに家を出て、
歩いて紳士クンの家に向かっていた。
今日の服装も、エシオニア学園の黒のブレザーである。
見た目よりも軽くて動きやすく、それでいて生地が丈夫なこの制服は、
本人の意思には関係なくよく喧嘩に巻き込まれる伴兆太郎にとって、
勝手のいい戦闘服のようなものなのだ。
(今頃は羽馬があの女をさらって、街外れの廃工場にでも閉じ込めてくれているはず。
これを機会に、俺は蓋垣との距離を一気に縮めてやるぜ!)
そんな事を考えながら、
あと十分も歩けば紳士クンの家にたどり着くという住宅街に差し掛かった頃、
目の前に、ある一人の人物が立ちはだかった。
その人物とは言わずもがな、凄木家の執事である瀬野莉伊汰である。
莉伊汰は今日も黒の燕尾服とスラックスに紅の蝶ネクタイを締め、
執事然とした出で立ちである。
例え凄木家の屋敷でなくとも、執事として行動する場合は、
必ずこの格好をする事になっているのだ。
それに対し、この住宅街におよそ似つかわしくない格好で現れた目の前人物が、
自分の行く手を阻んでいる事を悟った伴兆太郎はその場で足を止め、
槍で刺すような鋭い口調でこう言った。
「そこをどいてくれねぇか。俺は今から行かなきゃいえけねぇ所があるんだ」




