32 迚摸色雄は諦めない
更にその頃、静香が自分の部屋で明日の予定を立てていると、
双子の兄である迚摸色雄がぶしつけに部屋に入って来て、
勉強机に向かって例の古書喫茶の情報を、
ノートパソコンで検索していた静香の背中に声をかけた。
「静香!明日の撫子さんの予定を教えてくれないか⁉」
それに対して静香は、色雄に背を向けたまま、素っ気ない口調でこう返す。
「ノックもせずに勝手に部屋に入って来るお兄ちゃんには教えない」
すると色雄は素早く静香の背後に跪き、
両手を組んで神様に懺悔をするような調子でこう続けた。
「俺が悪かった!
今度からちゃんとノックするから、明日の撫子さんの予定を教えてくれ!
この通り!」
撫子に投げ飛ばされて以来、
撫子以外の女子が全く目に入らなくなってしまっている色雄は、
今にも土下座しそうな勢いでそう言った。
一方そんなバカ兄貴の気持ちが分からないでもない静香は静かにため息をつき、
色雄のほうに向きなおって言った。
「明日撫子さんは買い物に行くとか言ってたけど、
妹の乙子さんのお友達が家に遊びに来るらしいから、
もしかしたら家で一緒に遊ぶかもしれない」
それを聞いた色雄はキラリと目を光らせ、やにわに立ち上がって声を荒げた。
「そうか!それなら明日は俺も撫子さんの家にお邪魔する事にしよう!
静香!さっそく撫子さんに連絡してくれ!
そうだ!お前も一緒に行こう!」




