28 番長の密会の相手
更に時を同じくして、令太の恋敵である伴兆太郎は、
自宅近くにあるひと気のない公園で、一人の女性と向かい合っていた。
こう記すと、伴兆太郎は夜の公園で、
逢引きでもしているのかと思われるだろうがそうではない。
目の前に居るその女性は比較的小柄で、
背中に金の糸で『烈怒刃威悪憐主』と刺繍がされた真紅の特攻服に身を包み、
真っ赤に染め上げたウエーブのあるロングヘアーを、
頭の左側の高い位置でひとつにまとめて肩にたらし、
胸元には真っ白のサラシを巻き、
右手に金属バットを持ち、
左手はメリケンサックを握りしめ、
目元には魔女を思わせるようなドきついアイシャドーを施し、
まあようするに、レディースの暴走族のような出で立ちなのである。
実際彼女はエシオニア学園の周辺を縄張りにしている暴走族、
『烈怒刃威悪憐主』のリーダーで、
名前を羽馬郁子といい、歳は十七歳の高校二年生。
カ○サキのニ○ジャ400を体の一部のように操るライディングテクニックと、
そんじょそこらのチンピラなら、
素手でボコボコにできる程の腕っ節の強さと根性を兼ね備え、
アネゴ肌の面倒見の良さでリーダーにのし上がった実力派の不良である。
烈怒刃威悪憐主はメンバーが二十人程度と、決して大きなチームではないが、
個々の走りの技術と喧嘩の強さは他のチームと一線を画すものがあり、
そのチームでリーダーを務める郁子は、
他のチームから『疾風の郁子』として恐れられ、一目置かれる存在なのであった。
そんなその筋の実力者である郁子が、
エシオニア学園の男子部で番長を張る
(本人は全くそのつもりはないのだが)伴兆太郎と向かい合い、
今からタイマンの決闘を始めるのかというとこれまたそうではなく、
何やら込み入った話を始めるようなのだ。
神妙な面持ちで、先に口を開いたのは伴兆太郎だった。




