19 お姉ちゃんにお任せ
と、紳士クンは今日図書館であった出来事を簡潔にまとめて説明し、
その筋を理解した撫子は、紳士クンの肩から両手を離して言った。
「つまり仲裁に入った静香さんがそういう提案をして、
それに令太とあのホモ番長が従ったという訳ね」
「う、うん。でも、あの二人はお互いに凄く険悪な雰囲気で、
とても仲良くなれるとは思えないんだ」
「どっちも筋金入りのトラブルメーカーだものねぇ。
だけど静香さんはあんたと令太が男だって見抜いているから、
拳で語り合えば友情が芽生えるとでも思っているのかも知れないわね」
「そうだね。それに、この状況を楽しんでる感じでもあったし」
「彼女は男兄弟に囲まれて育ったから、
殴り合いの喧嘩なんか見なれた光景なんでしょうね。
だけどあのホモ番長は、あんたと令太が本物の女の子だと思い込んでいるんでしょう?
それがとてつもなくややこしいわね」
「そうなんだよ。だからといって思い切って打ち明ける訳にもいかないし、
一体どうすればいいのか・・・・・」
「そりゃあ、あんたも令太も女の子で通すしかないでしょうが。
あんたが紳士本人だってバレたら、
あのホモ番長は更に熱烈に言い寄って来るだろうし、
令太が男だってバレたら、ホモ番長は令太をあんたから遠ざける為、
女装して女子校に通っている事を周りにバラすかもしれない」
「ば、伴君は怖い人だけど、そんな事まではしないと思うよ?」
「そんな事分からないわよ。
今の話からすると、ホモ番長は令太の事を恋敵だと思っているみたいだからね。
人は恋に落ちると何をしでかすか分からないものよ」
「静香さんの、双子のお兄さんみたいに?」
「そうよ、その通りよ。だからバラさなくていい事実はバラさなくていいのよ」
紳士クンの言葉に撫子は露骨に眉間にしわを寄せてそう言ったが、
すぐに気を取り直してこう問いかける。
「で?二人は明日何時頃に来るの?」
「昼の一時くらい。
二人とも携帯の地図を見ながらここに来るから、
僕はここで二人をお出迎えするだけ。
明日お姉ちゃんは、何か予定があるの?」
「買い物でも行こうと思っていたけど、
明日は父さんと母さんも二人でお出かけみたいだし、
あんた達だけを家に残すのは流石に心配ね。
私もここに残ってあげようか?その為に相談に来たんでしょう?」
「う、うん。お姉ちゃんが居てくれると、
伴君も令太君も、そこまで無茶な事はしないと思うから」
紳士クンがおずおずとそう言うと、
撫子は久しぶりに紳士クンに頼ってもらい、
心が弾むのを表には出さないようにしながら
(しかし実際には出まくっている)
こう言った。
「仕方ないわねぇ、あんたの為にひと肌脱いであげるわよ。
まあ、いざとなったら私が、あの二人にゲンコツのひとつでもお見舞いしてやるから、
あんたは大船に乗ったつもりで二人を出迎えるといいわ」
「ありがとう、お姉ちゃん。
でも、ゲンコツはお見舞いしなくてもいいからね?」
撫子なら本当にやりかねないので、紳士クンは苦笑いを浮かべながらそう言ったが、
明日撫子も一緒に居てくれる事となり、紳士クンはこの上なく心強く思うのだった。
かくして紳士クンと撫子は、
明日令太と伴兆太郎にどんなおもてなしをするかという話題に移り、
その様子を、部屋の天井付近にプカプカ漂っている布由愁衣が、興味深げに眺めていた。




