11 怖い夢はまだ終わっていない
そんな事はみじん切りの玉ねぎ程も知らない紳士クンは、
撫子の言葉に苦笑いを浮かべるだけだったが、
一方の撫子は、自分の棚上げな言葉を覆い隠すようにこう続けた。
「ま、具合が悪いとかじゃないなら、
さっさと着替えて学園に行く支度をしなさいな。
どうせ朝ごはんを食べる暇はないだろうから、これでも食べなさいよ」
そう言って撫子は、紳士クンにある物をポンと放り投げた。
それを慌てて両手で受け取る紳士クン。
そしてよく見るとそれは、黄色く熟れたバナナであった。
「ば、バナ、ナ・・・・・・」
紳士クンの口から、思わずその言葉が漏れ出る。
ちなみに今紳士クンが持っているバナナは、
さっき夢の中で紳士クンのお股から生えていたバナナよりも、
ずっと立派な大きさだったが、
それはここではかなりどうでもいい話であるし、
その事を全く知らない撫子は、そのバナナを指差しながら言った。
「これならサッと食べられるでしょ?」
そして撫子も、自分の手に持ったバナナの皮を丁寧にむいていく。
「お、お姉ちゃんも、今日はバナナなの?」
紳士クンが震えそうになる声を必死に抑えながらそう尋ねると、
撫子は少しバツが悪そうにこう返す。
「そうよ。実は私もちょっと寝過ごしちゃってね。
だから今日の朝ごはんはこれで済ませるわ」
そして撫子はアングリと大きく口を開け、皮がむかれたバナナを口元へと運ぶ。
その様子を紳士クンは、尋常ならざる目つきで凝視した。
先ほどの夢の中での出来事が、まざまざと紳士クンの脳裏に蘇ったのだ。




