10 撫子がよく見る怖い夢
するとそんな中、
「ちょっと!いつまで寝てるのよ紳士⁉早く起きないと遅刻するわよ⁉」
という声と共に、紳士クンと瓜二つの顔立ちの、ひとつ年上の姉の撫子が、
ノックもせずに乱暴に紳士クンの部屋のドアを開け放ち、
無遠慮にズカズカと入って来た。
撫子は既にエシオニア学園の女子部の制服である、
セーラーカラーの付いた白を基調としたワンピースの制服に身を包んでおり、
まだ起きたばかりの様子の紳士クンを見て、一層声を荒げた。
「まだ着替えてすらいないじゃないの!
・・・・・・っていうか、どうしたのよその汗?
まさかあんた、具合でも悪いの?」
ぶっきらぼうな口調ながらも、一転して心配そうな顔色を浮かべる撫子。
いつもアタリはキツイが、何だかんだで紳士クンの事を常に心配し、
気にかけているのだ。
その辺りの事は紳士クンも重々分かっているので、何とか笑みを取り繕ってこう返す。
「だ、大丈夫。ただ、ちょっと怖い夢を見ただけだから」
「怖い夢ぇ?それくらいの事でそんなに汗だくになるなんて、
あんたもまだまだお子ちゃまねぇ」
そう言って肩をすくめる撫子だが、
撫子もよく、紳士クンが自分の傍から居なくなる夢を見て、
『紳士ぃっ!』と叫びながら跳ね起きる事があり、
それは一生紳士クンに明かされる事のない秘密の話である。




