久しぶりの再会、対決前夜
「救世主様、無事でしたか?」
「まあ、それなりには?」
「それは良かった。では、早速帰りましょう!」
フルールは俺の手を握る。だけど、
「悪いが、それはできない。俺はこの国でやらないといけないことがある。」
「それは一体?」
「この国のスパイレストのフリルって奴からマフル寄せで勝負しろって言われてな。流石に約束を反故にするわけにもいかないだろ?それこそ、この国での信用を無くすわけにもいかないし、そうなれば、いくら救世主の俺の言葉だからって、ウェステリア全土が黙っていないはずだ。」
俺はフリルとの勝負のためにこの国に残ることを話す。すると、呆れた顔でラヴェーラがホーンワームから降りてくる。
「何を馬鹿なことを言っている。相手は恐怖支配している国家だ。長居したら危ないと思わないのか。」
「俺はこの国に来て三日間様子を見ていたが、普通によくある王政国家と何も変わらなかったぞ?だから安心しているんだ。」
「そこまで言うなら好きにしろ。」
「わかっている。それに、この遊びが終わったらラフワールに話さないといけないことがあるしな。」
俺がそんなことを言うと、
「あら、私に何か用かしら?」
ホーンワームからラフワールがヒョッコリと顔を出す。
「うおっ!いたのかよ!」
いきなり現れたもんだから俺は驚く。
「あら、居たら悪いかしら?」
そんな俺を見てラフワールは普段のような余裕のある表情を見せる。
「いいや、悪いとは言わないけれど、これだけイースティアのメンツが居るのによく平然としていられるな。」
「そうね、貴方が居ない数日で事態が変わったの。貴方の件について、サーティアスはイースティアに協力することが決まったのよ。」
「なんだそりゃ?一体何がどうして?」
急な展開に頭が着いていかない。
「簡単な話よ。私とフルールで代表戦をしてフルールが勝ったの。だから私はフルール達に協力しているだけよ。」
「代表戦?なんでフルールが?」
「あら、フルールから聞いていなかったの?フルールはイースティアの国家行政局長よ。」
「こっかぎょうせいきょく?なんだそれ?」
「解りやすく言うなら政治家の長って感じかしら?」
なるほど、総理大臣みたいなもんか。ん?総理大臣?
「って、ええぇ~っ!フルール、お前、世直しの旅の一行だって…」
「それは仮の姿。私の国で有名な占術師さんがイースティアに救世主が降り立つって聞いて直接会うために旅の一行に扮していただけです。」
フルールは自信満々に言う。
「そういうことよ。それで、レイは今何をしているのかしら?」
インテリジェンスフォンであることを調べている俺にラフワールは質問してくる。
「ああ、マフル寄せの勝負を挑まれたって言っただろ?」
「そうね。それがどうかしたかしら?」
「マフルの生態が分からないから調べているんだ。国立図書館に行けばもっと専門的なことが記載されている本がいくらでもあるんだろうけど、そんなことをしていたら明日の勝負に間に合わないからこうして調べているんだ。」
「そんなことしなくても、仕留めてしまえば簡単な話じゃない。」
「いや、それって捕まえていないだろ。それに、俺はそんなに運動神経は良くない。」
「あらそう?なら、デスベロスの所で訓練でもする?あの子、あれでも陸軍の前線指揮長なのよ。」
「確かに、俺のこと筋肉が無いとか言っていたし、悪くないかもな。」
ラフワールの言うとおり、ここで生きて行くにはある程度筋力も必要になるかもしれない。そんなことを考えていると、
「レイ、貴様何を言っている!お前は我らの救世主。何故敵の軍に教えを請うつもりでいるんだ!」
ラヴェーラが怒るように言った。
「あれ?ラヴェーラは何時から俺のことを救世主って認めてくれたの?」
俺は揚げ足を取るように揶揄う。
「そ、それは…仕方ないだろ!フルール様はお前を取り戻す為にラフワールの提案した一対一の勝負を受け、それに打ち勝ったんだ。そこまでされて認めないわけにもいかないだろ!」
ラヴェーラは一瞬狼狽え、すぐに顔を真っ赤にして説明口調で話してくれた。ああ~、これがツンデレのテンプレか。
「お?なんだ、心配してくれていたのか?」
俺は更にラヴェーラを揶揄う。
「レイ、貴様!減らず口は相変わらずだな!」
ラヴェーラは行動こそ普段と変わらなかったが、口調は明らかに緩んでいた。ま、だから何だって話だ。流石にあんな口より先に手が出るような奴はお断りだ。そんなことを考えていると、
「それで、結局の所どうするのよ、明日の対決は?」
ラフワールは珍妙なものを見る目で俺達のことを見ながら言う。
「いや、マフルって動物のことを見て俺のいた世界に生息していた猫って動物に生態が殆ど似ているなって思って、作戦を考えていた。」
「へぇ、貴方の世界にも、マフル見たいな生き物がいたのね。それで、そのネコってどんな生き物なのかしら?」
ラフワールは興味を示す。
「そうだな、見た目はまんまマフルと同じで、小型の動物を食べる肉食獣だけど人懐こくて、人が持っている食べ物に興味津々で、モチモチしていて、ほっぺたもムニムニしていて、喉を摩るとゴロゴロ言って喜んで、デコを撫でると目を伏せて、またこれが可愛いんだよ。後は肉球の所も可愛いな。」
俺はついつい熱く語ってしまう。
「はいはい、もういいから。それで、作戦って何かしら?」
「悪いが、それは明日のお楽しみだ。」
そう、猫と同じなら年上の俺の方が強い、確実な勝利方法を俺は見つけたのだ。フリルの奴、見ていろよ。お前が想像もしない方法で勝ってやるからな。