その頃、フルール達は…:南東決着
時は経ち翌日十時、フルールは今も迷っていた。勝たなければ自国も救世主も奪われ、サーティアスとウェステリアによる戦争が激化し、他国にまで飛び火しかねない。しかし、本当に争い遭うことが唯一の手段なのかと悩んでいた。
「逃げなかったことだけは認めてあげる。でも、そんな悩んだ顔をしているなら私も諦めて、まずは貴方の部下と親友から殺すことにするわ。」
ラフワールはラヴェーラ達を見ながら言う。
「フルール様、立ち上がってください!今のイースティアにはフルール様のような方が必要なのですから!」
「フルールお姉ちゃん、負けないで!」
「そうだぞ!あいつが勝てば、それこそサンレイドは終わりだ!」
ラヴェーラ、ベル、そしてグリーバは思い思いのことを口にする。
「ラフワール様、あんな奴コテンパンにしちゃってください!」
「いっそ、一気に決着をつけちゃえば話が早いんじゃ。」
「あんた達ね、ラフワール様がそんな下らないことをするはずが無いでしょ!」
「どうか、武運を。」
一方、サーティアス側でグランドとウィンドははしゃぎ、バンは怒る。そんな中デスベロスは静かに勝利を願っていた。
「外野が騒がしいわね。フルール、今なら貴方が逃げるだけで話は終わるわ。イースティアが私のものになるって形でね。」
ラフワールは挑発する。
「もう迷いません、貴方のような戦争を求めている人には、話し合いが通用しない。それなら、私も剣を引き抜きます!」
それに対してフルールの目は真剣になり剣を鞘から引き抜く。
「ふふっ、サーティアス主催のちょっとした祭りとして丁度いいわ。」
ラフワールは今までと異なり左腕に小盾を装着し、大斧を構える。
「さ、いくわよ!」
ラフワールは普段と同じように大斧を持っているとは思えないスピードでフルールに近づき、大斧を振り下ろすが、フルールは足払いをかけつつその攻撃を避ける。
「おっと、危なかったわね。」
ラフワールは体勢を崩されそうになるが、斧の刃を咄嗟に地面に突き刺して体制を整え直す。
「まあ、それくらいでないと上に立つ者としては成り立たないわね。」
ラフワールは興が乗り、再びフルールに向かって突撃する。
「これなら、どうですか!」
フルールは再び足払いをかけようとするが、ラフワールが無策で突撃するはずも無く、ラフワールは斧の柄を地面に突き刺してフルールの足を止めると、そのままジャンプし、フルールの脇腹を両足で蹴り飛ばす。
「うぐっ!」
鍛えていないフルールの体に武人の打撃は効果があり、フルールは踞る。
「あらあら、どうしたのかしら?」
ラフワールはフルールに近付き、剣を握っていたフルールの右腕を蹴り飛ばしてその剣を落とさせると、そのまま拾い上げる。
「ふ~ん。見たところ、そこら辺で鍛冶屋が作ったような剣には見えないけれど、貴方みたいな歪な平和主義者には勿体ないわね。」
ラフワールはその剣を自信の陣営の辺りに投げ、剣は地面に突き刺さる。
「さあどうする?武器も無い、力も無い、勝負は見えた結果になったけど、まだ続けるかしら?」
ラフワールは踞っているフルールを見下しながら言う。
「…それでも、私は、最後まで諦めません!」
「ふふっ、往生際の悪だけは認めてあげるわ。でも、この状況で貴方に何が出来るのかしら?」
ラフワールはフルールが立ち上がるまで待ち、ニヤニヤと笑う。そして、ラフワールが近づこうとすると、何かがフルールの足下に飛んでくる。
「これって!?」
フルールは飛んできたものを手に取る。そう、飛んできたものの正体はラヴェーラの薙刀であったのだ。フルールはそのまま薙刀を構える。
「ちょっと!そんなの卑怯よ!反則よ、反則!」
当然バンは苦情を言う。しかし、
「黙りなさい!」
それをラフワールは制止させる。
「ですが!」
「確かに卑怯かもしれない。反則かもしれない。でもそれが何?真の覇王ならそれくらいの状況が相手でも勝てなければダメよ。それに、戦争に綺麗も汚いも無いわ。あれがイースティアの戦い方なら、私は真っ向からそれを撃ち落とすわ。もし出来ないなら、私の覇道は所詮その程度だったって事よ。」
ラフワールは目を輝かせながら言う。
「私達の平和を守るためにも、ここは勝たせて貰います!」
薙刀を構えたフルールは軽やかな動きでラフワールの猛攻を避けながらラフワールの斧の柄に攻撃を与え続ける。
「あらあら、そんなところを狙うなんて、何が目的かしら?」
ラフワールは薙刀の刃を柄で弾きながら言う。
「もうそろそろのはずです!」
フルールは強く言う。そして薙刀の一閃を斧の柄に向けて放ち、それが直撃すると斧の柄はぴきぴきと音を立てて真っ二つに折れる。大斧は長い柄で支えることを基準に作られている。支える力を失った斧の刃はラフワールの手からガタンと落ちる。
「これで、ラフワールさんの武器は無くなったはず。」
フルールはゆっくりとラフワールに近づく。しかし、
「私の武器が無くなった?冗談は国の思想だけにしてほしいわ!」
ラフワールは笑う。
「でも、ラフワールさんの斧はもう使えないはず!」
「よく見なさい、私はまだ武器を持っているわ。」
「それは、折られた斧の柄ですよね?」
「そうよ。でも、それだけじゃ無いわ!」
ラフワールは叫ぶと、折られた柄を盾の内側に取り付け、パイルバンカーにする。
「貴方のことだから武器を折れば戦えなくなって終わると思っていたのでしょうけれど、それくらい見越していたわ。だから柄の先が鋭い金属製のものにしていたんですもの。さ、勝負の続行よ。」
ラフワールはパイルバンカーで素早い突きを繰り出し、フルールは必死に避け攻撃を放つも、盾で攻撃を防がれてしまう。
「そろそろ、体力の限界じゃないかしら?」
ラフワールは余裕の表情を見せつつフルールをサーティアス陣営の壁際に追い詰める。
「いいえ、まだ終わっていません!」
フルールはそう言うと、ラフワールに背中を見せながら走り出す。
「あら、逃げながら言われても説得力は…って、そういうことね。」
ラフワールはあることに気付き、頷く。そう、フルールはラフワールが投げて地面に突き刺した剣を引き抜いたのであった。
「私は、最後まで諦めません!」
フルールは力一杯剣を振り下ろす。ラフワールはそれを盾で防ごうとするが、剣に込められた力はラフワールの想像を超えるものであり、ラフワールの盾はひび割れと共に崩れる。
「…勝負あったわね。私の負けよ。約束通り、救世主の件はイースティアに全面協力するわ。」
ラフワールは悔しさと笑顔が混ざった表情でそう言い、代表戦はフルールの勝利で幕を下ろした。
それから二日後、フルールとラヴェーラ、ベル、グリーバ、そしてラフワーるを乗せたホーンワームによるウェステリア防壁突破作戦が実行され、フルール達は再び零と再会出来たのであった。