その頃、フルール達は…:南東会談
零がインテリジェントフォンの契約手続きをグラッドと行っている頃、フルール達を乗せたホーンワームはサーティアスの入出国門前に止まっていた。
「すみません。覇王ラフワールに急ぎの用事があります。取り次いでもらえないでしょうか?」
フルールは門番に事情を説明する。しかし、
「申し訳ございません。入出国証明書、またはラフワール様からの招待状はありますか?」
門番はその職務を正しく全うしており、フルール達は通れずにいた。すると、入出国門の電話にラフワールから電話が来る。
「ラフワール様、お忙しい中申し訳ありません。…実はイースティアの方々がラフワール様にお会いしたいと。…ですが、書類が無い者を通すわけには……畏まりました。お伝え致します。」
門番は電話の受話器を戻す。
「ラフワール様からの許可がおりました。ですが、流石にホーンワームから降りていただくことが条件になります。我らとて、先日ウェステリアから爆撃を受けた地域の修繕で手詰まりなので、ホーンワームで通られるわけにはいきません。」
門番はラフワールからの指示通りのことを伝える。
「わかりました。みんな、ここからは歩いていこう。」
フルール達はホーンワームから降りてサーティアスに入国すると、ラフワールの城まで一直線で向かった。
城に入ったフルール達はグランドとウィンドの案内を受けて応接間へ案内される。
「待っていたわよ、フルール。それからラヴェーラ。」
ラフワールは表情こそ笑っているように見せているが口調は真面目そのものであった。
「覇王ラフワール、この度は国難の中、内戦中の我々と面会していただきありがたく思います。」
フルールは頭を下げる。
「それで、要件って何かしら?そろそろラヴェーラをいただけるのかしら?」
ラフワールは毅然とした態度を見せる。
「またそんなおぞましい世迷い言か。」
ラヴェーラはラフワールの言葉に呆れる。
「貴方こそ、サーティアスの国民になれるという栄光を捨てるなんて可笑しいわ!」
それに対してバンは意見する。
「二人とも、雑談はそこまでにしなさい。それで、イースティアの国家行政局長が私に一体何の用かしら?」
そんな二人をラフワールはたしなめ、フルールに目を向ける。そう、フルールは旅の者としての姿は仮の姿で、正体は国家行政局長、日本で例えるならば総理大臣に該当する立場であったのだ。
「この度訪れた理由は一つです。救世主レイの件です。現在、救世主はウェステリアに略奪されたとの情報が入っていますが、サーティアスとしてはどのように思っていますか?」
「そんな下らないこと?確かに、ウェステリアは私の国民を盾にして救世主を奪っていったわ。でも、それがなに?また奪い返せばいいだけの話しじゃない。そんなに難しく考えることでも無いわ。」
フルールの言葉にラフワールは笑いを堪えながら返す。。
「難しい事って、そんなことをしたら戦争が始まってしまいます!」
フルールは争わない方法を模索しようとする。
「あら、サンレイドで考えれば些細な内紛かもしれないけれど、これを現在の三国で見たられっきとした戦争よ。貴方達イースティアは平和遵守法があるから戦争はしないつもりでいるのかもしれないけれど、戦争はすでに始まっているのよ。」
しかし、ラフワールは戦争はすでに始まっているのだから諦めろと思っていた。
「なら、戦争をしないようにウェステリアも含めて三国できちんとした会議をしましょう。」
「貴方、話を聞いていたの?ウェステリアは話を聞く気が無いの。話す気の無い相手に平和遵守法とかいう綺麗事が通用すると思っているの?」
「ですから、争わないために言葉があるのです。」
「はぁ、このままだと堂々巡りを繰り返すだけよ。貴方のしたいことをはっきり言いなさい!」
ラフワールはフルールに厳しく言う。
「元々救世主はイースティアに降臨してきました。ですから、救世主に戻ってきてほしいのです。その為にも、一度は救世主を奪っていったサーティアスに責任もって協力してほしいのです。」
ラフワールはフルールの言葉を聞き、暫く沈黙する。そして、口を開く。
「呆れた。まさか奪った人に協力を求めるなんて。それなら、協力してあげなくも無いけれど、一つ条件をつけるわ。明日、私と貴方で代表戦をしましょう。貴方が勝てば、救世主の件はイースティアに協力し、救世主に手を出さない。その代わり、貴方が負ければイースティアはサーティアスの領土にする。それでいいかしら?」
ラフワールの言葉にフルールは驚く。
「そんな!それではまるで戦争みたいではないですか!」
「まるで、では無いわ。これはれっきとした戦争よ。でもいいじゃない。本来なら私のホーンワーム隊できちんとした軍備の無いイースティアを制圧しても良かった所を国の代表同士での決着で終わらせてあげるのだから。」
「それでも、戦争はいけないことだと思います!」
「貴方は何も解っていないのね。いい?戦争っていうのはね、争いあうことでは無いの。争いを終わらせる為の手段なの。何時までもうじうじしているなら私も本格的に武力行使をするわ。勿論、イースティアだけじゃなくウェステリアにもね。」
「解りました。私も国家行政局長として、今回の代表戦の件、受けさせていただきます。」
「そう。なら明日の十時、両国の国境、南部量子力学研究所跡地で決着をつけましょう。」
ラフワールは笑顔で話す。
「解りました。」
フルールの目には闘志が篭もった。