美しい人
高台にある美術館からは、海が見えた。
特別展示室「ウォーターフォール」。
展示室に足を踏み入れると、薄暗くひんやりしている。そして、壁一面に滝が流れていた。瀑布というにふさわしく、霧のような水しぶきを感じるほど。滝の余りの音に、無音になったかのような静けさだ。
その中に、一人の女性がいた。
すらりとした長身の身体に、ターコイズブルーの薄いワンピースをまとっている。小さなバッグを後ろ手に、滝の前をゆらり。ワンピースの裾がやわらかく揺れて、細いヒールが、コツ、コツ、と控えめな音を立てた。女性は、あごで切り揃えた髪を、すっきりと耳に掛けている。薄い耳たぶで、細長い金色のピアスが揺れた。
美しいものにふれると、美しくなれる。そしてまた、美しいから、美しいものにふれるのかも知れない。
2022年2月1日 改訂