その日、闇に飲まれた
ふと思いつくままに書きました。
気長に書いていきたいです。
夢なのか異世界なのか・・・
暗闇にいた。
目をあけたのか、まだ瞑ったままなのか、それが分からないくらいの深い闇の中だった。
けれど怯えよりも、どこかでほんの少し安堵している自分を見つけていた。
やっと解放されたのだと…
その男はごく普通の会社員で、毎日仕事に追われ余暇などなく、体を休めるために仕事以外の時間は極力睡眠に当てるという生活を送っていた。
給与は少なく、税金や保険などに持っていかれた後に残る手取りはスズメの涙程度であった。
貧しい生活のため食費に多くを割くことはできず、趣味といえばスマホの無料ゲームだが、それも手当たり次第に始めては放置することを繰り返しているだけだった。そんな生活を送っていた。
夢も希望もあるわけではない、ただ楽になりたかった。
そんな状況だった自分を思い出し、この闇の中で『解放されて楽になったんだ』という気持ちが湧いてくる、そんな時だった。
「・・ほう。お前、この状況がそんなに嬉しいか。」
目の前の一部が少し明るくなったかと思ったが、そうではない。暗闇から影が現れたのだ。
気が動転して声にならない声が喉から出かかっていたが、出てこない。
その影が続けた。
「お前にはまだまだはたらいてもらう。」
嫌だ!働くのは嫌だ!!せっかく解放されたんだ、働くなんてごめんだ!
そもそも何だ?影が喋るとかおかしくないか?そうか、夢か‥。夢を見ているからこんな状況なのか。
意識はあるような気がするから、これは明晰夢ってやつだ。俺は知ってるんだ。夢なんだから何を言っても大丈夫だ。ははは。
大きく一つ深呼吸をして、落ちつくと自然と声が出た。
「労働なんてまっぴら御免だ。俺はこれから自由に生きることにするよ。」
「ふむ‥。それがお前の願いというわけだな。良いだろう、少し手を貸そうではないか。なぁに簡単なことだ。我がお前の願いを叶えてやろう。‥そうだな、これは取引だ。3つの願いを叶えてやるからその後にお前の魂を頂こう。」
「魂と引き換えに願いを叶えるなんて、随分と古典的な悪魔みたいだな。俺はさっき『生きたい』って言ったんだぞ。聞いていなかったのか?」
「そうだ。だから『自由に生きた』後に、死を与えよう。幸せから絶望へと至るその瞬間の魂を我は欲しておるのでな。」
こいつ何を言っているんだ?本当に悪魔か?やれやれ、俺もへんてこな夢を見るようになっちまったな‥。よし、ならいっそのことカマをかけて嵌めてみるか。ファンタジーなら通用するだろ。
「おう、いいぜ。契約成立だな。」
「ならば願いを3つ言うがよい。」
「一つ目の願いは、願いを六千垓に増やして欲しいというものだ。」
声に出して願いを言った瞬間、地面に魔法陣が現れそこから黒い蔦が勢いよく伸びてきて俺の身体を覆い隠す。
黒い光とともにその蔦が崩れ靄となって消えていった。
「ははは、良いだろう。願いを増やせという願いはこれまでにもよく聞いたが、百とか一万とかかと思ったわ。」
「‥良いのか?ある意味禁じ手だと思ったが。」
「構わん。いつかその願いは費えるのだ。その後の絶望が大きくなるだけよ。」
‥何かおかしい。普通は願いを増やすことを反対するのではないだろうか?何かを隠している??
あっ、そうか。願いが増えたとしても、3つ目が叶うと死んでしまうのか!
願いを叶える発動のタイミングは、願いを発声した瞬間に解決処理されるんだな。だとすれば、3つ目の願いの解決処理の後に死ぬのか、これを回避するには‥うーむ。イチかバチかやってみるか!!
「2つ目の願いは、お前の消滅だ。」
「、、なっ!……」
先ほどと同じように魔法陣が現れ俺を黒い蔦が覆い隠す。そして黒い光が中から弾けるように放たれると靄となり消えてゆく。
恐らく目の前にあったはずの暗闇にある影は既になく、静寂に包まれていた。
「…やったか?」
ある意味定番の死亡フラグを呟きつつ、現状を確認する。もう大丈夫そうだ。
そりゃそうだ。夢なんだから死亡フラグを呟いても死ぬわけがない。
どれくらいの時間が経っただろうか、落ち着いて考え始める。そして発声した。
「3つ目の願いは、願いが叶った後に死ぬという契約の破棄だ。」
あの悪魔?のような存在は消えたが、願いを叶える度に出てきた黒い蔦のようなものが俺の魂を縛っているのだろう。だとすれば3つ目の願いを叶えると死ぬという契約はまだ残っているはずだ。
楽になりたいと思ってはいたが、どうやら俺はまだ生に執着があるらしい。
発声と同時に地面に魔法陣は広がり、黒い蔦が俺を覆い隠したが、すぐに天頂から眩い光が降り注いだ。黒い蔦はキンと高い音を3回立てて崩れていった。
なかなかどうして楽しい夢じゃないか。周りが依然として暗闇なのでよく分からないが、とにかくこれから面白いことが起こればよい、自由に生きるってやつをせめて夢の中だけでも味わあせて欲しいなんて考えていた。
こうしてその日、俺は悪魔に転生した。
タイトルは今は関係ないですねー
今は…ね