第4話 チェンジリングの片割れ達と偽生者
最近、情報屋である私の元に増える客がかなり多い。あまり人と接すると顔を覚えられる可能性があるからよろしくないんだが……
まあ、いつ切り捨てられるか分からない商売だからある程度は晒した方がいい。最近の主な収入はイェーツ国家呪術魔導師とその使用人のカーク。その使用人は冒険者ギルドに登録するや否や3属性持ちということで白ランクではなく黄色ランクから始まった上に半年でオレンジランクに昇格した。使用人になる前の事は誰も知らない為、私に情報を買いに来る人が絶えない。
一方、その雇い主のセレナ・イェーツは貴族嫌いとして有名な人物である。彼女は孤児院で育ち、ラモーナ・イェーツ名誉魔導師首席に引き取られるも、イェーツ家を訪れる貴族の色眼鏡に晒され、心を開く相手がいなかった。だが、貴族以外にも厳しい筈の彼女のイメージを覆す者が現れた。
「セーラー!?何処いるのー?」
セレナの愛称であるセラの名を呼ぶ青年がトミー・カーク。例の使用人だ。そう言いながら今日の依頼人をギルド向かいのカフェの椅子に座らせる。
「本人に聞いたところ歳は18で、彼女と同じらしい。魔導の素質があるらしく、噂では3属性持ち。はっきり言って素質だけなら、国家魔導師首席級だが、技術はそこら辺の冒険者に負ける。彼の纏う空気から言えば親和性はかなり高いが魔力量が多すぎて制御で精一杯だな」
言い慣れた説明をすると、依頼人は薄く青みがかった灰色の髪を掻いて苛立ちを隠さない。
「俺はそういうのが聞きたいんじゃない」
まぁ、オレンジランクの話題は半年も前の事だ。誰でも知ってるだろうな。
「レイリーさーん!セラ来てなーいー?」
冒険者ギルドの受付嬢に馴れ馴れしく話しかけられる人物は彼ぐらいだろうか。ランクは下から数えた方が早いが、あそこまで周りの視線を気にしないのは大物というかなんというか。
席を外しているレイリー・カースティンの代わりに答えたのはヒュアキンス・ロルフ・ノックス。
「トミー、お疲れ。セレナは二階の会議室でカースティン組とお茶会してるよ」
三十代後半でありながら、銀ランクを維持し続けている彼はカースティン孤児院の門番と呼ばれる。淡い黄色の髪に青と紫のオッドアイが印象的で、柔らかな見た目とは裏腹に中々過激な一面を持つことで有名だ。
「トミー・カークはカースティン孤児院出身ではないが、ノックスさんはかなり目をかけている。カークに手を出すなら相応の覚悟が必要だな。
さて、今私が持っている情報はこれぐらいだ。仕入れろと言われればできるが、今のあんたには金がないだろう?」
図星を突かれたように呻いた彼は、大きな舌打ちをすると、こめかみを抑え呟いた。
「青三つ、銀一つでどうだ?」
青の仕事はないんだよな。でも確か、チャニングが嗅ぎまわってるし銀二つで丁度だろう。
「青なし。銀二つ」
私の返しに眉をひそめるも、指で眉間をグリグリと解し、了承の合図をするとそのまま出て行く。
毎度あり。と心の中で呟いて、カークに近づく。彼は情報屋にとって金の卵を産む鶏だ。本当にポロポロ情報を落としてくれるから、一日一つと言わずに金が手に入る。
「やあ、トミー。女性陣のお茶会が長引きそうなら私の家でゆっくりお茶でもどうだい?」
花を飛ばすとはこの事かという程満面の笑みを浮かべている彼は「おやつ!」とはしゃぐ子供のようだ。まぁ、彼の好みはとっくに把握しているからな。一番好きなお菓子と紅茶を把握すれば、餌付けは簡単だった。
(年齢詐称で強請ろうかな?)
微笑む仮面の下に隠した思いは隠し、今日も金の卵を産んでもらうために家まで2人で歩く。私の金で掬った情報をばら撒いてやる必要はない。私のテリトリーの中でだけ零してもらう。上澄みの情報はあっても、それを煮詰めて纏められるほど持っている奴は私以外誰もいない。
「イェーツ嬢にはなんの用事だったんだい?」
そう問えばなんの疑いもなく教えてくれる彼は農民の子にしては手が綺麗で、貴族の子にしては心が綺麗だ。
だから、セレナを助けられるかもしれないと私とレイリーはこっそり手伝っている。まぁ、資金源にはさせてもらうが。
「昇格試験受けてもいいって言われたから練習相手してくれそうな人いないか聞きたかったんだ」
紫ランクになるための『赤の試験』は赤以下のランクであれば誰でも挑戦できる。だが失敗すると一年間挑戦権停止と、一定期間の報酬没収があるから、黄・オレンジランクはほぼ挑戦しない。それでも保護者から許可が出るのだから、潜在能力が高いのか。確か、来月の予定の筈だから、ほぼ最速だな。
「ほう、そうかい。受かるといいね」
ありがとう、とはしゃぐ子供は本当に18なんだらうか。3つ上の私としては少々受け入れがたい。ギフテッドの反対はなんと言うんだったか、と現実逃避する頃には家に着いていた。
さて、今日は何を落としてくれるのかな。
庭のガーデニングセットをどかして、テーブルやカップを呼び寄せるとキラキラした目で見られた。何回目だろうか、小さい子供の面倒を見ているようなこの感覚は。
知らない方が幸せな事もあるな。そう自分に言い聞かせ、ポットを蒸らす。
茶葉もすぐになくなるので、サイフが寒い。表の顔でも買ってるが、買い過ぎると不審に思われる。孤児院自体は貧乏だからあまり買う訳にはいかない。変な噂が立っても困るが、金の卵が無くなる方が困る。
サーブされた紅茶にミルクを足すのはやめたようだが、砂糖はまだ2つも入れている。子供舌の人はいるが、茶会ではストレートで飲むのがマナーだというのに……親に直されなかったのだろうか。
彼は家族に関することだけは、絶対に話してはくれない。他の趣味嗜好は何一つ隠さないのに、まるで記憶を鎖でグルグル巻きにしたかのように覗かせてくれない。そもそも覚えていないかのように返事を誤魔化すし、思い出させようとしてした時は頭を抑えて、気絶してしまった。
頭部にセレナの魔力があるから、彼女が彼の記憶を封じているのだろうか。記憶を封じるなんて芸当、無意味に出来るほど彼女の魔力は多くない。わざわざそんな力を割く理由はなんなのか。
これはきっと金になる。いつかきっと、大きな金の卵を産んでくれよ。