第3.5話 一章完結記念・達也の独白
どうか、どうか、俺を嘲ってくれ。
どうか、どうか、俺を罵ってくれ。
どうか、どうか、俺を叱ってくれ。
どうか、どうか、俺は罰がほしい。
そんな、思いを口に出さず、すんでのところで飲み込むと、胃に重りを入れたみたいにズンと体が重くなる。胃の下あたりから冷たく、重くなっていく。まるで毒が体を侵食していくようなその感覚は未だ慣れない。いや、慣れてはいけないものなのだと思う。
「ごめん、カイ。俺、お前のこと分かった気になって、気を逸らそうとして、お前のこと追い詰めてた。切り替えたフリするのが上手いなんて分か……いや知ってたのに」
俺に、お前のことを『分かって』たなんて言う資格なんてない。俺みたいな幼なじみを二人とも殺してしまうような奴に、悲しむ資格はないんだ。
小さくなってもう使わなくなった勉強机に、海斗と、美月と、俺が一緒に花火をした日の写真が置かれている。俺が美月の目を奪う前に撮った写真で、義眼になった美月は写真を嫌ったから、俺たち三人の最後の写真だ。小五の俺が海斗の頭に顎を置いて左腕を首に回しながらピースしていて、海斗はそんな俺のほっぺを引っ張ってるけど笑ってる。美月はその隣で少し笑いを堪えながらも両手でピースしている。
この時がきっと一番幸せだった。イジり、イジられ、ぽんぽんと弾むように言葉を掛け合うのが本当に楽しかったんだ。
冷たい何かが体の中を這い上がり、心臓を包み込んでいく。締め付けられるのに、苦しいのに死ねない。それがただただ、きまりわるい。俺が死んで何になるって話だけど、それでも、二人に謝りに行きたい。今、凄く後悔してるのに、行く気になれない。
病院で酸素マスクをつけた海斗の顔が忘れられないんだ。
四人部屋を独り占めする海斗の病室は小さな電子音ですら、耳の中を駆け回って怖くなる。ピッ、ピッとゆっくり繰り返す度に胸が締め付けられる。血が足りないからか青白くて、冷たかったのを覚えている。あれから3ヶ月経ったけどまだ行けない。
あの時の美月と同じ、ゴムのような柔らかくて冷たい温もりを忘れるまで、怖くて、行けないんだ。
なあ、早く起きてくれ。
弱虫のタツを見つけてくれよ。
あの冷たい温もりを上書きしてくれ。
もう一回、カイにタツって呼んでほしい。
美月、カイのこともう少し待ってくれ。
わがままだって分かってる。
あの事故は俺のせいだけど、海斗は悪くないんだから。
俺のこと要らないだろうけど、俺が代わりになるから。
だから、だから、お願いだから、海斗を起こしてよ神さま。
わがままでごめんなさい。
自分勝手でごめんなさい。
頭の中がぐちゃぐちゃで、自分でもよく分からない。俺はどこから間違ったんだ?小五の時?中一の時?それとも最初から?ああ、誰か教えてくれ。俺はどうしたら、良かったんだ。謝って済まないけど、あの冷たい川の中に落ちていった君の代わりに飛び込めていたらどれほど良かっただろう。
きっと、君は死ななかったし、カイもあんな姿になんかならなかった。
「ごめん、海斗。もう少しだけ、待ってくれ。ごめんなさい」
誰にも聞こえない謝罪は師走の暗闇に溶けていった。