第3話 名の誓い
じっと見つめ合う俺とローブの女(仮)。木の葉で見えないはずなのにちゃんと目が合っている。
「降りてこい、魔族。無闇矢鱈と攻撃しないところを見る限り、覚醒しているのだろう?話をしようではないか。話をする気がないのなら、その木ごと焼き殺す」
聞こえたのはややハスキーな女声。ただ、低くドスの効いたそれは否応なく俺を木から降ろした。
「分かった!今降りるから!」
急いで飛び降りると、呆れたような声があがった。
「お前、案外鈍臭いのな。魔人で恐らく覚醒済みっていうから梃子摺ると思ってたよ。飛び降りも出来ないとか、運動音痴にも程がある」
着地の衝撃で足がビリビリしている俺は涙目で睨みつける事しか出来ず、可哀想なものを見る目で見られた。三メートル上から飛び降りて無事なだけ凄いだろうが。
「そんな泣き顔で睨まれても怖くないわ。覚醒してるのに、飛び降りできてない時点で素の能力がどれだけ低かったのかと思うとさ……」
何この屈辱感。なんかスッゲー心にくる。頼むから憐れまないで。
「残念過ぎて、殺る気なくなる」
会心の一撃。もうやだ。俺のライフはもうゼロよ。泣きたい、というか泣く。亀のように蹲って・・・今更だけど、変換がすっごーく不穏だった気がするのは俺だけだろうか。
「あ、そのまま時間稼ぎするつもりなら殺るよ?」
気のせいじゃなかった!?!?
「お気になさらず、続けて下さいませ」
チキン、と漏れた声と噴き出す音が心を刻んでいく。その高笑いやめて。足の痺れはもう無いけど別な意味で立ち上がれない。
「私は、セネット呪術魔導師首席だ。お前の真名はなんだ」
セネットって確かファミリーネームだよな。平民なのか分からないから名字を言うべきか分からない。でもどうせ考えたんだし言おうかな。
「俺の名前はトミー。トミー・カークだ」
右手を差し出すと、よろしくするつもりはない。とはたき落とされた。冷たい、酷い。
「では、カークに質問だ。お前は何故堕天した」
堕天ってなんだ?いきなり知らないワードが飛び出てきて混乱してしまい、そのまま口から出ていたようで、呆れたように教えてくれた。
「なんで魔人になったのかって聞いてるんだ」
「俺は一般人だ。魔人になんかなってない」
焼き殺すとか言ってたし、絶対魔人だと肯定してはいけない気がする。
「トミー・カーク。汝は光の元に生き、闇を憎む真の人であることを汝の名の下に誓うか」
何でいきなり教会で神に誓うみたいな状況になってるの?!でも誓わないと絶対殺される!!
「私、トミー・カークに憎き魔人である事実はなく、光の元に生きし真の人であることを我が名の下に誓う」
誓えた。と小さな声がした。ふーんと値踏みするような目で見られ、居心地が悪い。ジロジロと俺を見る視線はしばらくしてから、不承不承ながら外された。
「真名で誓えたのならば問題はないだろう。『真名ならば』だがな。
さて、『トミー・カーク』は魔人ではないと仮定しよう。お前は何処の生まれで、どうして此処をウロついているのか聞かせてくれ」
きたよ、一番面倒くさそうな質問。まともな言い訳できるかな・・・いや、しないと死ぬんだ。
「私はオーサという街の生まれで、裏山の罠の仕掛けを見に行く途中で、いきなり裂け目に落ちたんだ。地面だけじゃなくて、空間そのものが裂けていたから、空間系の魔法に巻き込まれたんだと思う。
気がついたら、4つか5つ前の山の中にいた」
ふーん?と煮え切らない返事をされると、また質問された。
「親、兄弟はいるか?」
「母さんは出てった。父さんは出稼ぎでほぼいない。一人っ子だから実質一人暮らしだ」
咄嗟に本当のことをいうと、養子に行った奴はいないのか?と不思議そうに聞かれる。
「居ない、けど……」
恐る恐る上目遣いで彼女に見やると、頭を抱えてため息を吐いた。なんかミスった!?
「お前は隣の大陸のオーサ村生まれ。その髪は魔道の暴走により染まったもので害はない。髪色のせいで村を追われ、村に入れなくなる魔道具の誤作動でこちらに飛ばされた」
何処のキャラの背景ストーリーですか?
「これからはそう言え。私が口添えするから、辺境伯以下のやつは文句は言えないだろう」
お、これは成功か?少なくともすぐ殺される訳ではなさそうだ。でも、どうして口添えなんてしてくれるんだろうか。顔に出てたのか呆れたような顔をされた。
「希望の髪色はあるか?」
いや、髪染めまでとか余計分からないよ!
「無いなら金髪青目な」
いやいや、何処の人形だよ!やめてよそんなthe・外国人の色は!俺は純日本人なんだよ、似合わないってば!
【瞳よ映せ、海の色。母なる海を見つめよ】
【髪よ映せ、月の色。守護の月を見つめよ】
【色映り】
いやいやいや、何そのす〜っごく御加護がありそうな呪文は!てか、呪文言わなきゃいけないのそれ?やだなぁ。
「顔がうるさい」
いやいやいやいや、理不尽でしょうが!
「いやいやと煩いんだよ。黙れ」
……声に……出てたのか。
「出てるし、表情からしてうるさい」
申し訳ございません。土下座すると、またため息を吐かれた。
「ところで、どこかに泊まる所はあるのか?」
「……ございません」
なーんか、やな予感。ふーんと顎に手を当てる彼女は、悪巧みしてる顔だ。急に俺の首根っこを掴んだかと思うと、
「私の使用人になれ」
フラグ回収でーす。諦めて、引っ張らないでとだけ言い、彼女の後ろをついていく。なんだか上機嫌な彼女は俺の沈んだ心に気付いていない。