第1話 貴女が遺したモノ
今日も一人、君のいなくなった左側をチラチラ見やりながら帰る。手には劣化して久しい義眼。手入れも何もしてないからもう数年もあれば壊れるだろう。
彼女、いや美月は小さい頃、まだ小学校の時に片眼を奪われた。事故で三角定規の先が刺さったんだ。いやあれは、事故じゃない。確かにたまたまの事故だけど、何百分の一の確率の事象も何百回も繰り返せばいつか起こる。あれは起きるべくして起きた傷害事件だ。
手の中で転がす義眼は持ち主のところにいた時間より俺が貰い受けてからの時間の方が長くなる。2つ目の義眼を作りに行くちょっとまえにいなくなってしまったから、少しだけ、ほんの少しだけだけど、目の色が違かった。それが今もまぶたの裏に焼き付いている。
ポーンポーンと軽く放ってキャッチしていると、後ろからドンっと押され
「よっ!角川おつかれー!」
指の間をすり抜けてしまった。
カーン。
カーン。
手すりにぶつかった甲高い音が反響し、視線が釘付けになる。俺を押した達也の声すら聞こえない。手を伸ばすと、ふわっとした気持ち悪さが体を覆って、空が足元にあった。橋自体はそんなに高くない。でも、高速道路に落ちて何も起きないことがあるだろうか。
いや、必ず起きる。
視界が白く照らされ、真紅で塗りつぶされた。寒いな。力が入らない。右手の中で砕けている義眼と目があった気がした。
「角川!・・・誰か救急車呼んで!」
「海斗くたば・・よ!」
「・なな・・か・・!」
だんだん耳が遠くなってきた。視界も真っ暗で何も見えない。ねぇ、美月。お前も死んだ時、こんなに痛かったのか?熱いのに寒くて、怖くなかった?暗闇の深く深くに落ちていく感覚は恐ろしかっただろう?
「みつき、ごめんね。こんなにいたかったんだね。
ねぇ、かみさま。・・・もし、ほんとうに・・・いるのなら・・・」
その先の言葉は、誰も聞けなかった。その先は、ただ神のみぞ知る。