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第2話 隠れられない性質

 ヒメらがミツメの町で釣りに興じているその時、迷えずの森にて。


「ここが盗賊共のアジトみたいだな」


 森に茂る木々や草葉に隠れオーマが呟く。

 視線の先には森の中に不自然に並ぶ人工的な木柵。整然と並ぶそれはオーマの視界の端まで続き、その向こう側を見づらくしている。


 木柵の奥にはテントよりも立派ななりの建造物も見受けられ、さらにはあたりを無骨な男たちが徘徊している。事前情報としてこの森を住処にする一般住民が存在しないこと、このあたりで盗賊の目撃情報が多いこと、この二つから彼らが盗賊であることは間違いない。間違ってたらごめんなさい。


「見ればわかる」


 偉そうに応じるのは黒髪の少年たまちゃん、またの名を楊珠玉という異国イースのお偉いさんだ。オーマと同様に隠れながら盗賊のアジトに目を向けているが、その切れ長の瞳、への字に結んだ口から察するにとても不機嫌なようだ。理由は知らない。


「何故我がわざわざ匪賊なぞに時間を割かねばならぬのだ」


 不機嫌の理由など知ったことではないが連れてきた理由をわざわざ作るなら。


「働かざる者食うべからずと言ってな。昨日二人は寝てただけだろ」


「夜間に無駄な労苦を背負った主らの自得だ」


「あー聞こえないなー」


「ぶつぶつぶつ」


 たまちゃんの至極まっとうな論撃を聞こえないふりで流しつつ俺はただの腹いせで連れてきたことを隠す。だって俺たちが文字通り入れ替わり立ち代わりして難儀している間こいつら寝てたんだぜ。許せないだろ。


「ともかく今大事なのは目の前の盗賊共を一匹残らず殲滅することだ。子々孫々末代に至るまでその尽くを根絶やしにしてくれる」


「ふん、好きにしろ」


 自分に向けられた理不尽な暴挙に半ば諦めるようにたまちゃんは話を終わらせる。あるいは俺が盗賊に向ける並々ならぬ殺意、いや、滅意に引いてしまったのか。


「まずは間引きだ。気づかれていない今のうちに孤立したやつから一人ずつ消していく。じわじわいたぶるように確実に。気づいた時にはもう遅い、賊などに身をやつした己の罪を悔いながらやつらは死んでいくのだ。ぐふふ、ぐわっはっはっはは」


「・・・・・・」


 たまちゃんからの何だこいつという視線を浴びながら俺は比較的手近で目立たない場所に立つ盗賊に魔法の狙いを定める。


「死に―――――」


 今にも一撃確殺の低級魔法を放とうとしたところに。


「やあやあ!!遠からん者は音に聞け!近くば寄って目にも見よ!!ここに居出ましたるは君たちを狩りし狩人。その名も、リン!」


「・・・・・!」(アーシェ!)


「君たちの悪行もここまでだ!さあ、いざ尋常に勝負!」


 こんな朗々とした名乗りが聞こえてくる。


―――オーマの『炎撃』!


―――盗賊Aに999のダメージ!


―――盗賊Aを倒した!


 途中で口を噤みながらもオーマが放った炎撃は一人の盗賊を一撃で倒す。それと同時、盗賊のアジトから怒号が発せられる。まばらだった盗賊たちがその数を倍々にして打って出てきた。まるでオーマの一撃が開戦の火ぶたを切って落としたかのように。


「珍しく静かだと思ってたら、何してんのあいつら」


「いつものことだ」


 おそらくオーマたちがいるのとは反対側で、リンとアーシェが正々堂々正面から盗賊のアジトに乗り込んでいた。ついさっきまで同行していたと思いきやいつの間にか向こうにいてこちらの作戦をぶっ潰してくれた二人に対するオーマの感情たるや。


「まあ、注意があっちに行くならこっちはやりやすいけど」


 割と寛容であった。不思議な慣れであった。


 とにもかくにも。


「汚物は滅菌しなきゃな」


 呟くオーマの足元にはいくつもの魔法陣が浮かび上がり、その口元にはうっすら笑みが浮かんでいた。










「なんで堂々と名乗りを上げてるんですか!?」


 予想外の行動を起こした連れに異論をぶつけるのは赤髪の青年アルフレッドである。頭の上に蒼の子竜を乗っけている。訴えられているのは短い金髪を爽やかにかきあげる青年リン、本名を十鉄鈴。目の前に立ちはだかる盗賊のアジトと思われる砦に高らかに名乗りを上げた直後である。


「ふぅん」


「ふぅん。じゃないですよ!なんで満足気なんですか。もっと隠れて一人ずつ倒しましょうよ!安全に行きましょうよ!」

 

「・・・・・」(そう言うな兄弟。こういうのもいいじゃないか。かなり楽しい)


 無言無表情でアルフレッドをなだめるのはアーシェ。アルフレッドと同じ真紅の髪を二つに括った少女だ。何も言わず何も考えてなさそうな顔なのでその意図を読むことが出来るものは限られている。その限られたうちの一人であるアルフレッドは鬼気迫る表情で言葉を重ねる。


「アーシェでもこんなことはしませんよ!? これだけはしないでくれましたよ! いや、出来なかっただけかもしれないけど!」


「・・・・・」(大声出すのは恥ずかしいんだぜ)


 アルフレッドとアーシェは幼馴染で多くの苦楽を共にしている。その中には二人で敵地に乗り込むという場面も数多くあった。だが敵地の真正面で名乗り上げるなどということはアーシェはしないのだ。しなかったのだ。


「君たちに出来ないことを平然とやってのける、それが僕さ!」


「知りませんよ!」


 一方的にアルフレッドが狼狽している二人の言い合いの最中、アジトから出てきた盗賊然とした不潔な身なりの男たちがアルフレッドたちの周囲を囲む。その様子をアルフレッドの頭上の子竜がちらりと確認し、すぐさま興味を失ったように目を閉じ、ぐてんと力を抜く。


「・・・・・」(心配しなくていい。すぐ終わる)


「弱きを助け強きを挫く。我が力、そのために振るわせてもらう! さあ、かかって来るがいい!浅ましき凡俗よ!」


―――アーシェの攻撃!


―――盗賊Bに427のダメージ!

 ―――盗賊Bを倒した


―――盗賊Cに433のダメージ!

 ―――盗賊Cを倒した


―――リンに253のダメージ!

 ―――リンのふんばり発動!HP1で耐えた!



「ぐほぐぇ」


「アーシェーーー!!!!味方に当たってるーーー!!!!!」


「・・・・・」(てへぺろ)


「ぐうぅ、ここまでやるとは思わなかったよ。ならば見せてあげよう、僕の本気を!己が無謀を恥じると良い。今こそ放つ僕の奥義! 無限にして悠久なる美のために、輝けエナジー! 優しき母よ、力強き父よ、厳しき師よ、楽しき友よ、まだ見ぬ仲間たちよ、僕に力を! ただこの一瞬にすべてを込めて!」


「長・・・」

「・・・・・」(長い)


 その間、襲いかかる盗賊たちをアーシェがこともなげに突いては捨て突いては捨てを繰り返す。リンに指一本触れさせない姿を見るに申し訳ないと思っているのか。多分違うだろうなとアルフレッドは思う。


「『金色無双』」


 その瞬間リンの姿が金色の輝きに包まれる。


―――リンのHPが全回復した。

―――リンのステータスが飛躍的に上昇した。


「さあ、僕はまだまだ耐えられる!」


 そうしてリンは盗賊たちからの攻撃を受けてものともしない姿を見せつけた。攻撃はしないらしい。


「・・・・・」(その姿が見たかった)


「それだけの為に味方刺しちゃ駄目だから!」


 またアーシェの欲が出たかとアルフレッドはため息をつく。アーシェはその行動方針に見えにくいもの、見落とされがちなものを優先して見に行くというなんとも面倒な方針が据えられている。簡単に言えば落とし穴があればまず落ちるタイプの人だ。そんな人いてたまるかと思うがアーシェはそういう子だ。何度死にかけたか。


 その後ある程度予想していた通りにアーシェが襲い来る盗賊をすべて倒してしまった。


「・・・・・」(お金お金)


「お金お金」


「ふふふ、ざっくざっくだね」


 その後三人で盗賊たちの懐を漁り始めた。


(あの、素朴な疑問なのですが、その行為は盗賊のそれとは何が違うんですか?)


(盗賊に人権はないから)


(・・・・・・そうですか)


 アルフレッドの頭の中で響いた声は複雑そうに消えていった。













「ははははは。燃えろ燃えろ!皆燃えてしまえ!!」


 炎撃、炎撃、炎撃。


「ぐわああああ」

「ぎゃああああ」

「死にたくないーーー!」


 一人、裏の木柵を破壊して盗賊のアジトに乗り込んだオーマが内側から盗賊を焼却していく。その姿はまるで人村を蹂躙する魔王の様である。


「盗賊なんぞ皆殺しにしてくれるわ!」


 いや理性が欠乏している分、魔王というよりもただの狂人に近いかもしれない。


「なんや! どこのもんや! うちらに手ェ出すとはええ度胸やなあ!」


 その地獄絵図に更なるもう一人の登場人物が現れる。この場に似つかわしくない華奢な女性、褐色の肌に、栗色の髪が絶賛炎上中の炎に当てられ黄金色に輝いて見える。そんな彼女の肩に担がれたハンマーはさらに彼女に似つかわしくない重厚なもの。


「ん?」


「あ」


 そしてその姿はオーマにとって見覚えのあるもので。思わずその名を口にしようとして済んでのところで踏み留まる。


「ダレダッケ。知らないなー。でもこんなとこにいるならきっと盗賊だろうなー。じゃあ倒さないとな。よし」


「よし、じゃないわ! シーファや! シーファ=ガルード! 昨日、いや今朝になるんか? 改めて名乗ったやろ! セラ姉の妹! 町長の娘! 麗しのヒロインや!」


「ご職業は?」


「盗賊」


「俺の職業は?」


「勇者」


「そこから導き出される結末は?」


「えーまたそのパターン?」


「さようなら」






 こうしてミツメの町に多大な被害を与えていたらしい盗賊一派は崩壊した。





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