あんまりモテなさそうな奴に限って彼女ができるとバカップルになりがち。しかも彼女メンヘラ。
そのあと僕は何が何だかわからないまま家へと帰った。買ったゲームもする気なんてさらさら湧かない。
誰もいない家がひどく寂しく、満たされない気がした。でもこんな顔は誰にも見られたくはなかった。でも心配されたかった。よくわからない感情をもてあまし時間だけが過ぎる。
「もう18時か。」
どれだけの時間を無駄にしたかわからない。
ふと携帯を見ると光っている。凛子からラインの返信が返ってきていたみたいだ。
『どうしたの?電話くれてたみたいだけど、ちょうど部活中で出れなかった!』
「どうしてそんなこと言うんだ。これ以上嘘をつかないでくれよ…」
そんなことを1人声に出してみるが当然返事はない。或いは信じたくなかったのかもしれない。目に焼き付いてしまったその光景を。
これ以上は惨めになるので返信を返さないまま携帯をポケットにしまおうとする。
カサッ
ポケットの中の何かに触れる。
「なんだこれ?名刺か?」
『世界を変えてみませんか?貴方に意思があるならこの名刺を持って叫んでください。リア充なんてクソ食らえ!と。 WRBO第四部隊副隊長 中地・マイケル・吉斗」
「馬鹿馬鹿しい。こっちはそれどころじゃねえんだよ。第一他人の恋愛なんて…」
僕はそう思い机の上に名刺を置き。空腹のため台所に向かおうとする。
スタスタスタ。
「ま、まあ一回叫んでみるくらいなら……。」
一度机の上に置いた名刺を手に取り叫ぶ。
「リア充なんてクソ食らえ!」
そう叫ぶと同時に名刺を持っていた右手が光りだし、十字架の模様が浮かび上がり、視界が暗転する。」
気づくとそこは白い部屋だった。さっきまで自分の部屋の机の前にいたはずなのに。もちろん自分の部屋が白いわけではない。自分の知らない白い部屋という意味だ。
「ここは…?」
とりあえず思ったことを口に出してみる。人など見当たらないので返事があるわけもないが。
「ようこそWRBO本部へ。ようこそ木野海斗様。」
「うだ!??」
返事などないと思っていたので不意打ちをくらいへんな声が出てしまう。ちなみにうわ!なんだ!?って言おうとしたはず。
声がした方向を見てみると、背の高い秘書風の女性が立っていた。うわっ胸でか。エロッ。足長っ。エロッ。美人すぎだろ。エロッ。
やばい思考が変な方向に向きかけた。てかどっから出てきたのこの人。
「こんにちは。私はWRBO第四部隊書記の夢島叶と申します。わたしについて来ていただけますか?」
「は、はい。海斗行きます。」
こんな美人と話せて思考が安定しない。
「どうしました?こちらです。」
ぽけーっとしていたら夢島さんはどうやら進んでいたようで、僕は慌ててついて行く。
白い部屋は終わりが見えなくて夢島さんを見失ったら、一生迷子になりそうだった。
その白い空間をひたすら夢島さんについて歩いて行くと、ドアノブらしきものが見えてきた。夢島さんがそのドアらしきものをノックする。
トントントン
「副隊長。お連れしました。」
「どうぞ入っていただいて。」
中からも声がする。どこかで聞いた声だ。
「木野様。どうぞお入りくださいませ。」
夢島さんがドアを開けつつ僕にそう言う。僕はその言葉に従い中へと入る。
中にはスーツにネクタイをした、背の高いイケメンがいた。
「改めてようこそWRBOへ。海斗くん。名刺にも書いてあったと思うけど僕の名前は中地・マイケル・吉斗だ。よろしくね。」
「こ、こちらこそよろしくお願いします。」
秘書っぽい美女に続き仕事の出来そうなイケメンが来てもう何がなんだかわからない。でも顔的には絶対マイケルって感じの顔じゃない。日本人だよ明らかに。だから質問をする。
「こ、ここは何なんですか?さっきまで家にいたのに見たことのない場所にいきなりいて。それにこの手の甲の模様は?あとハーフなんですか?」
「ははは。一度に色々と質問しないでくれたまえよ。ちゃんと答えるからさ。それで、一つ目の質問は僕がきのこの山派かたけのこの里派どっちなんですか?って質問だっけ?」
「いやちゃんと答えてねーよ。今の状況でなんでいの一番にそんなこと聞かなきゃいけねーんだよ。」
一気に緊張が吹き飛んだ。なんだこの人はたったの五、六行前のことも覚えてないのか。
「ふふっ緊張はほぐれたかい?」
「まさか、緊張をほぐすためにそんな事を?」
本当にそのつもりだったなら彼の試みは大いに成功だったといえよう。やはり見た目通り聡明なのかもしれない。
「うん。じゃあ説明しようか。きのこの山は僕はそんなに好きじゃなくてね…どっちかっていうと…」
「ほんとに覚えてなかったのかよ!無理しなくていいよ!僕はここがなんなのかって聞いたんだよ!」
そろそろこの男性が見た目通りじゃない可能性が浮上してきた。どうしようなんかムカついてきたよ。
「あー!そうだったね、ここがなんなのか…。ふむ…哲学的な質問だ。ここがなんなのか。今自分自身がいる場所が本当にここと言えるのか、はたまた自分のいる場所を自覚しているのは自分だけで…」
「やかましいわ!僕はただこの場所が!施設が!何をする場所なのかって聞いてるんだよ!誰が哲学しろっつったよ!」
うん。この人はただ者じゃないってことがわかってきた。かなりやばい。クレイジーが度を越してる。ムカつくベクトルに。
「だからここはWRBOって言ってるでしょうが!」
「だからその説明をしろよ!」
話しが一向に進まない。
「ちっ。そんなことも知らねーのかよ。ここはなぁ、ワールド・リア充・撲滅・オーガナイゼーション通称WRBOだ。コノヤロー。」
ついに暴言吐き始めたよこの人。しかも何そのネーミングセンス。やってることはわかるけどもう少しマシな名前があっただろうに。
話が進まないのでこれらのことを飲み込み次の質問をする。
「それって具体的にどんなことをするんですか?」
「うむ。いい質問だ。」
いや、誰でもそう思うわ。
「ではこちらからも一つ質問をしよう。」
いや、あんた何も答えてないからね。今のところ組織の正式名称と自分がたけのこの里派ってことしか言ってないからね。
「君は僕がハーフに見えるのかい?」
そこは覚えてるんかい!しかもハーフに見えるから聞いたんじゃなくてどう見ても日本人だから聞いたんだよ!
しかし話が一向に進まないので適当に頷いておく。
ニコ
なんで嬉しそうなの!?この人!猛烈にうざい!どうしよう猛烈にうざい!
「ではもう一つ質問をさせてくれ。君は外出先でイチャコラサッサしてるカップルを見てどう思う?憎いかい?」
「憎い。さっさと死ねばいいと思う。」
この手の質問には今敏感だ。フラれたわけではないが失恋したと言っても過言ではないからだ。
僕のその言葉に対して満足そうに彼、いやもうマイケルでいいや、は頷くと、言葉を続ける。
「ね!ムカつくよね!しかもさ、いかにもヤリチン&ビッチみたいなカップルって意外に少数でさ、ちょっと地味目なカップルに限ってそういうことしてるんだよね。
それこそ初めての彼女ですーって感じの男と高校入ってコンタクトつけてデビューした風のちょっとメンヘラっぽい女のカップルでさ!」
「それはあんたの主観だろ!いやちょっとわかるとこがムカつくけどさ!」
ここにきてから語尾にエクスクラメーションマークのつく回数が異常に増えた気がする。気のせいであってほしい。
「まあまあとにかく、ここはそういうムカつくカップルの男の方を抹殺しましょう。っていう人たちがたくさん集まってる場所だと思ってくれればいいよ。男の方さえヤれば世の中のモテない男性にお鉢が回るからね!」
「ん??じゃあなんで女性の方もいるんですか?」
そう。夢島さんはどうなるのだろう女性は女性の方を抹殺したいと思うのではないだろうか。あれそういえば夢島さんどこだ?いつのまにか居ない。
「うん。ここにある女性はイチャコラしてるカップルがムカつくからどちらか消せればいいという人が沢山いるからここの男性と利害が一致してるんだよ。」
「でも物理的に抹殺なんてしたら大変なことになるし…」
そう。現代日本で殺しなんて一発でバレる。だからそこまでのことをする人がいない。最近ではキャトルミュ何ちゃらって言う方法で誘拐とかしてる人がいるって話だけど。
「それは大丈夫!キャトルミューティレーションてことにするから!」
「犯人お前らかー!」