夢フクロウ
――僕はフクロウが昔から大好きだった――
物心ついた時には既に大好きで、フクロウのぬいぐるみをいつも持っていた。
小さい頃に怪我したハトを家に連れてきて必死に看病してそのハトに『フクちゃん』って名前をつけて飼ったりしていた位だ。
僕は将来はフクロウを沢山飼ってフクロウにいっぱい囲まれたいと思っていた。
気づけば僕も30歳になっていたが、相変わらずフクロウが大好きだった。
ある時、ネットサーフィンをしていると気になるブログを見つけたのだ。タイトルは、『フクロウを飼っている居酒屋を見つけた』
とても胡散臭い。
フクロウカフェなんかは聞いた事があるが、フクロウの居酒屋は初耳だった。
何よりも内容がとても気になったので読んでみることにした。今からおよそ2年前の記事だった。
――〇〇駅から徒歩20分位の場所にソレはあった。
閑散としているんだけれど、そこには潰れてるのか分からないような飲食店がいくつか点在していた。
その中に木造の古びた怪しげなお店があって興味本位で入ってみたんだ。
お店の名前は歯車?とかなんか変わった名前だったのは覚えている。
そこに入って俺は驚いたね。なんと店は狭くて一人用の椅子が1個だけ。汚くてボロく、いつの時代か分からないテレビが置いてあって砂嵐の状態なのにずっとついていてとても気味が悪いの。
ここではあまり書けない悪趣味な物がいくつか置かれていた...。
店主も普通の人じゃないのは見てすぐに分かった。でもそれ以上に驚いたのはブログのタイトルにもある通りなんとフクロウがそこには居たんだ。
足は鎖で繋がれていた。
そのフクロウはとても大きくてかなり汚かった。
恐らくかなり年寄りなんじゃないかな。
それで、メニュー表を見たらびっくり。恐ろしく高いんだ。
でもそこで帰る勇気もなくて僕はその中で1番安かった生ビールと鳥の唐揚げを頼んだ。
それでも4000円だったよ...
それを頼むと店の主人が笑ってさ「フクロウ触ったり何でもしていいですよ」って言うんだ。
食事中だし触るのもどうかと思って写真だけ撮ってすぐに帰ったんだ。
そしたらね、後で携帯の画像探しても真っ暗な写真しか残ってなくてさ...あそこは何だったんだろう。気味が悪くてもう行ってないけど知ってる人いる? 』
そのブログに対してのレスポンスは数件あるが、誰一人信じていないようだった。
僕も半信半疑ではあったが、ブログに書いてあった駅の場所を調べると偶然にも僕の最寄り駅から電車で十分程で乗り換え無しで行けるとても近い場所だった。
普段行く方向とは逆で、僕の行ったことのない場所だった。
騙されてる可能性があると思いながらも興味をそそられた僕は行くことを決意した。
それを見た数日後の金曜日、僕は仕事終わりに電車でそのフクロウの居酒屋があるとブログに書いてあった駅に行ってみることにした。
しかし、どんなにネットサーフィンしてもそれ以上の情報は見つけられなかったので地元の人に聞きながら探すことにした。
地元の見かけた人に何度か聞いてみるものの、「そんな場所は知らないし聞いたことない」と誰にも知れていない様子だった。
1時間以上探しても何の手掛かりもなく、嘘のブログだったのかなと諦めかけていたその時、一人の浮浪者らしき身なりの人が通り過ぎようとしていた。
僕はダメ元でその浮浪者らしき人に声をかけてみた。
「あの、すみません、ここら辺でフクロウのいる居酒屋を知りませんか?」
そうすると、こっちを向いて困り顔で返答した。
「ん...... 兄ちゃんあそこは普通の人が行くところじゃないからやめときな.....
あ、その話ほかの人に聞かない方がいいかも知れないよ。それ、割とタブーなんだ。これ以上の事は俺の口からは教えられないなぁ...」
そこで僕は驚いた反面嬉しい気持ちとその意味あり気な言い方に益々知りたい気持ちが高まった。
「お願いします。どんな所かとても興味があるんです。場所も教えてください。あ、お礼もします。 」
僕は財布から3000円取り出して浮浪者らしき人の手に握りしめさせた。
すると彼は声のトーンを落としボソッと話しかけてきた。
「まいったな。そこまで言うなら分かったよ、でも後悔しても知らないからね..... もう30年くらい前からあそこはあるんだ。
何でもフクロウも当時からずっと生きてそこに居るんだってさ.....人にはあまり言えないような商売だって聞いたことがあるよ。
値段も超ぼったくりだとかね。詳しくは分からないけど.....場所はね、あそこに歩道橋が見えるよね。あそこを渡った先の路地を右に曲がると潰れた店がいくつかある場所にいくんだけど、その中にあるよ。
そこだけ明かりがついているから行ったらすぐに分かるよ。あ、あと兄ちゃんこんなにありがとね。これで今夜は酒でも呑もうかな。」
「いえいえ、分かりました。こちらこそありがとうございます。」
僕は言われた通りに歩道橋に向かって進んでいった。それにしても僕はワクワクしていた。本当に実在したという喜びとおじさんの話が本当ならフクロウは30年近く生きている事になる。これは大型でもかなり長寿に入るからだ。
気付くとさっきの話に出てきた潰れた店の並んだ元飲み屋街であったであろう場所が現れた。
その中に一際気味の悪い雰囲気を漂わせ、明かりがポツリとついているお店があった。他のお店は全て潰れており、いかにもな雰囲気を漂わせていたのですぐに分かった。
「ここに間違いない。 名前は...糸車と書いてある 」
店の中に入った。ドヨンとした嫌な空気と微かな異臭がする。少し先からザーッとテレビの砂嵐が聞こえてきた。周りはとても暗いが先にぼんやりと明かりが見えた。
ドアを開けて廊下を進むというお店にしては少し珍しい作りだった。
部屋に入ると砂嵐のテレビ、その場所に似つかわしくない様な玩具、一人用の椅子、そしてとても大きくて古ぼけたフクロウがそこに居た。
足は鎖で繋がれていてその鎖は根元から完全に錆びていた。
静かにジーッとこっちを見ていた。
――僕は固まってしまった――
何故なら僕はフクロウが小さな頃から好きで、どんなフクロウでも知っている筈なのだが、そのフクロウは図鑑でも見たことがなかった。
「なんだこのフクロウは... 」
すると奥からこの店の主人が入ってきた。
とても不気味な主人だ。
「いらっしゃい。 メニューをどうぞ。」
僕はとりあえずメニュー表を見ることにした。
これまた驚いてしまった。
――目玉焼き五万円、手羽先六万円――
まるで別の世界に入り込んだような感覚だった。
その中にあった鳥の唐揚げと生ビールのセットの四千円の物を頼むことにした。
値段を考えるなら、それ以外の選択肢がほとんど無いようなものだったから。
数分後ビールと唐揚げを持ってきた店主がニヤリと笑いながら一言発した。
「お待ちどう。 フクロウに何してもいいよ。」
どこぞのブログで見たようなセリフを言った。
僕は触ったり、写真を撮ったりした。そして店主に聞いてみた。
「このフクロウは何フクロウですか? こんなフクロウ私は知りませんので」
すると主人は自慢げな顔をしながら口を開いた。
「こいつはアデアモフクロウだよ。 こいつは世界に一匹しかいない。だから俺は絶対に逃がさないようにずっと内緒で飼ってるんだ。」
この主人の言うことが本当なのならこれはとてもすごいことであった。
それにこのフクロウはまるで何かを目で訴えてくるような感じがとても伝わってくる。今までのどのフクロウよりも興味をそそられた。
それから唐揚げを食べ、ビールを飲み、店主とくだらない雑談を色々した。
好きなアーティストの話やこの辺りで若い女の子十人以上の連れ去り事件が多発している話などをした。
しばらくフクロウに触ったあと満足して家に帰った。
それ以来あのお店のフクロウをすっかり気に入ってしまった僕はたまにフクロウに会いに行っていた。
そしてそんな事が続いたある日、ついにはフクロウは僕の夢にまで出てくるようになった。
何かを言いたげなフクロウがただただこちらをジーッと見つめているそんな夢。
その日を境に僕は毎日のようにフクロウが夢に現れるようになっていったが、それが何故か分からなかったが、とても幸せに感じた。
そんな日々が一年ほど経った頃だろうか、相変わらず僕はたまにあのフクロウの店に通っていた。
そんなある時、僕が家にいる時に急にインターフォンが鳴った。
出てみると見たことの無い二人組の男だった。
男達は「家の中を見せて欲しい」と急に言ってきた。
『急に何をいってるんだこいつらは?』と思った僕は断ったのだが、とてもしつこかったので仕方なく家に入れることにした。
僕の家に入ると男達は驚愕していた。それもそうだろう。
僕の家には誰も見たことがないようなフクロウを十三匹も飼育していたから。
その瞬間男達はフクロウを奪おうとし、僕を拘束しようとした。
僕は必死に抵抗したものの、その男達に捕まってしまったのだ。
その後、どこの場所かも分からない場所へ連れ去られ冷たい檻に閉じ込められた。
僕は叫んだ。
「一体なんだって言うんだ! 僕のフクロウ達を奪ってどうするつもりだ! お願いだから出してくれ! 」
大切に捕まえて育てていたのにとても悲しい気持ちになった。
それからどれだけの長い時が過ぎたのだろう。
僕はまだ檻の中にいた。
時間がとても長く退屈に感じた。世の中はなんて理不尽なんだろうと嘆いた。
僕は檻の中で眠りにつくと、いつもの夢を見た。そしていつもと同じフクロウが現れた。
それはいつものあのフクロウだったのだが、表情や雰囲気がいつもと違った様子だった。
フクロウは僕に対して話しかけてきた。
「ツ...ギ...ハ...」
やっと話しかけて来てくれた。フクロウが僕に話しかけ来てくれるのが例え夢でもとても嬉しかった。
「ツ...ギ...ハ............オマエダ 」
フクロウはゲラゲラ笑いながらそう言っていた。 フクロウが笑った所を僕は初めて見た。
次の日、僕は朝早くからどこかに連れていかれ目隠しをされた。
首輪みたいなものをされた。
そして、大きな音が鳴ったと同時に僕の意識はぶっ飛んだ。
それからどれだけ経ったのだろう。
ふと目を覚ますと、そこは薄暗くてまだ木の香りが新しい場所に僕はいた。
見るもの全てが不思議に思えてそれは今まで感じたことのないような新鮮な感覚だった。
周りは飲み屋街か何かなのかガヤガヤと賑わう声が聞こえてくる。
僕は何故か足を動かす事が出来なかったが、時期に動かすことが出来るのだろう。
早くここから抜け出して自由になりたいと直感で感じた。
そこは、テレビの砂嵐がとても耳障りな場所だったが、なんだか変に懐かしい気もした。