序章 抱いてはいけなかった禁断の想い
何が私を、こんなにも歪ませてしまったのだろうか。
生まれ持った容姿や才能、家だって何一つ不自由なく、寧ろ恵まれた環境の中で15年間育ってきた。
やりたいことは何でも挑戦できたし、欲しいものは我慢することなく買ってもらえた。家族には感謝ももちろんしていたし、不満なんて以ての外だった。
交友関係こそはあまり記憶に残るようなものはないけれど、トラブルもなく無事平和に築いていけたと思っている。親友と呼べるような人は生まれてこの方一人もいないとはいえ、それに寂しさを感じたことは一度もなかった。何より、私には優しくてかっこいい兄がいる。私が生まれた時からずっと一緒にいて、喧嘩なんて滅多にしたことがないくらい仲良しで……。
だから私は友達が少なくても全然大丈夫だった。兄がいるだけで私は十分幸せだった。
ただ、いつしか兄に対する想いが、「大好き」というピュアなものから、だんだんと「愛」が溢れるほど深く重くなっていた感覚があった。一度はブラコンかと考えたことがあったが、その言葉は私の中にある兄への想いとうまく合致しなかった。溺愛かと言われると、それも少し的外れな気がして……。わからないまま悶々と過ごした中学時代だったけれど、この気持ちは外に出してはいけないものだと、私の中の本能が叫んでいたのは今でも覚えている。
この感情が一体何者なのか、中学時代ずっと悩んでいたが、高校受験真っ只中にその正体に気づいてしまう。そしてそれは禁忌のものだということにも同時に頭では理解してしまった。
そしてその頃には名門の女子高を蹴って、至って普通の公立学校へと進路を進めていた。
――――少しでも兄と同じ環境の中で過ごしたかったから。
ただそんな純粋な想いだけで将来を決めてしまっていいものかと、一度は手を止めかけたが、不思議と後悔は何一つなかった。
完全で完璧だった人生の中で、大きな過ちを犯したのかを聞かれたら、私はこう答えるだろう。
――――兄に抱いてはいけない恋心が芽生えてしまったこと。 だと。