美食は突然に
一目見て思った。
一皿に盛られた料理のように美しく。
出来立て熱々の料理のようにいいにおいで。
自分の大好物の料理のようにおいしそうだった。
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僕は今日も一人で消失の窓から空を眺める。
僕の名前は、赤宮修吾。
どこにでもいるぼっちな高校一年生です。
高校生活も始まって早くも三ヶ月。
待ちに待った夏休みが始まるとのことで周りは浮き足立ている。
興味ないけど。
僕にはあんまり関係ないけど。
学校にいようが家にいようが、やることは変わらないし、やらないことも変わらない。
これといった趣味は食べることぐらいだし、他にやる気もないし。
次の授業が始まるまでの間ただただ空を眺めている。
無駄な時間だ。
僕はこれまで生きてきた時間のほとんどがこの無駄な時間でできてると思うとなんか無性に虚無感が来るけどそのおもいだってこのままただただ空を眺めていれば薄まってくのだろう。
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「おい!おまえ!俺の杏果に色目使ってるらしいな、ちょっとこっち来いよ。」
放課後のチャイムの鐘が鳴り、帰ろうと思ったら知らない人に話しかけられた。
誰だこいつ?あぁー知らんわ。こんなおっかな怖そうな男の人。しかもご丁寧に後ろに何人か仲間?らしき人もついてるし。
めんどくさ、木下さんの彼氏かなんかかな?
「色目なんか使ってないですよ。使いたくても僕の目の色死んだ人みたいな色してるし。」
冗談交じりに適当なことを言って、僕はたちあがった。
このまま立ち去れば、おいおいめんどくさいことになるのはわかっているけど、未来の苦労より今の楽を取るのが僕だ。
「ふざけたこと言ってんじゃねーよ。ぶっ殺すぞ。」
男の人は僕の胸ぐらをつかんで壁にたたきつけた。
なかなかの勢いだったのかどんっと大きい音がなった。
まわりで女子の悲鳴が聞こえてきた。
おいおい、声を出すくらいなら助けてくれよ。
「痛いじゃないですか、怖いじゃないですか、軽くちびりましたよ、手も震えてきてますよ。」
僕が震えている方の手を見せると男の人の取り巻き達が笑い出した。
何かしらのヤジも飛ばしている。
大声でオーバーリアクションで全く傍観者というのは羨ましいね。
捲したてるだけまくし立てて危なくなったら逃げるんだから。
「おいおい、いつまでそんな余裕ぶっこいた態度とってるつもりだ?」
おお、こわ。
尋常じゃないくらいのメンチの切り方だ。
何かしらの賞が取れるんじゃないかな。
「無視か?まぁ別にいいやこいつでもくらっとけよ。」
男の人が僕の顔に拳のグーを入れる。
周りから早されて感情で動く人は後々クロすると思うけどなぁ。
しかしこの拳いたいなんて、ものじゃない。
何も感じない。
まぁもとから僕に痛みなんて感じる機能が脳にないから仕方ないか。
人間なんて何かしらの欠陥があるものだしね。
周りから悲鳴と歓声が上がる。
まったくいつのまに、こんなに傍観者が増えていたのやら。
これで終わりと思ったら、男の人は地面に寝そべった僕を何度も踏んづけてきた。
こわいねぇ。
刀を鞘に戻すタイミングを完璧に見失った感じかな。
周りのヤジもヒートアップしてるし誰も止めそうにない、あぁめんどくさい。
このまま死んだら死んだで別にいいんだけどそう簡単に死ねないのが人間なんだよな。
この男の人踏む箇所さっきからお腹ばっかしだし、変な嘔吐感が来てるよ。
「おいおいおい。やりかえしてこねーのか?ギャラリーも乗ってきてんだかかってこいよ。」
確かにギャラリーは乗ってきているけどやり返すもクソもないだろこの状況で。
立ち上がらないことには、どうしようもないし。
止めと言わんばかりに最後の蹴りが僕の腹に入ろうとしたときに。
「何しているんだ。藤堂!」
一人の男性教師が入ってきた。
大勢いたギャラリーは蜘蛛の子のように散っていった。
男性教師は誰かがよんできてくれたのだろうか?
男性教師は僕のところに駆け寄ってきてボロボロの僕を見た。
「なんでここまでする必要があった!それなりの理由があるんだろうな藤堂。指導室に行くぞ!丸中すまないが赤宮を保健室まで連れて行ってくれ。先生は救急車に連絡してからすぐ行く。」
男の人、藤堂と呼ばれていたな。先生は先に彼と一緒に職員室から出た。
「大丈夫?ですか。」
マルナカと呼ばれていた女子生徒恐る恐るが僕に聞いてくる。
「別に平気。」
僕はスクッと立ち上がり、体についていた汚れを叩く。
丸中さんは、目をパチパチさせてから
「保健室に行こうと思うんでうけど。」
「ん?別にいいよ、めんどくさい。心配してくれてどうも。」
僕は何事もなかったように教室から出た。
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歩きながら軽くふらつきがあったから、行きつけの病院で検査してもらってから、帰り道に着いた。
特にこの後、藤堂くんとやらにやり返す展開も丸中さんとの恋愛ドラマもない。
断言できる。
事実は小説より奇なりなんていうけど、合ってるっちゃあってるししかし人にとっては間違ってるとも言える。
小説よりも奇なりな人生もあれば普通に何事もない人生生きてる人だっているのだから。
平凡以下の停滞した世界で生きる僕だっているのだから。
気がつけば我が家に着く。
空腹だ。
空腹は敵だ。
敵は倒さないとね。
家に入ると当然誰もいない。
僕はこの一軒家に一人暮らしなのだから。
親は海外に出ているし、よくできた弟は僕と兄弟なのが恥ずかしいからと親に頼み込んアパートで一人暮らし。
冷蔵庫を漁って魚肉ソーセージしかなかったからそれを口にくわえた。
一度制服から外着に着替えて、外に出た。
結構遅い時間だったから暗く街灯の電気だけが眩しい。
近所のスーパーでひとしきりの買い物をして家に帰る途中にそれにあった。
『おごごごッッGっっぐ?』
目の前にあらわれた化け物。
死にかけのようで腹が切られているのだろうか?腹からたっぷりと血が出ている。
その化け物は僕の方を見た。
動けなかった。
それは恐怖から来るものではなく感動から来るものだった。
一目見て思った。
一皿に盛られた料理のように美しく。
出来立て熱々の料理のようにいいにおいで。
自分の大好物の料理のようにおいしそうだった。
そして何より僕はおなかがすいている。
腹が泣きやまらない。
口から唾液が溢れ出る。
たべなきゃあ!たべなきゃあ!たべなきゃあ!たべなきゃあ!たべなきゃあ!
こんな美味しそうなもの誰かに食べられてしまう前に僕がたてべてあげないと。
「いただきます!」
目の前の化け物はなくなっていた。
いや先ほどまでそこにいたのだろう、そこにはだいぶ薄くなってはいたが血痕の後があった。
化け物の足跡もしっかりあった。
ただ。いまは目の前にはいない。
「ごちそうさまでした。」
僕は久しぶりの高揚感に胸を躍らせた。
なくなってしまった?
違う食べきってしまったのだ。
一口一口が幸せで、今までどんなに高い高級店でもどんなに繁盛している人気店よりも美味しくなにより美味しかった。
もったいない、またたべたい。
僕は名残惜しく舐めきってしまった血痕をなめた。
また出会えるよね僕の最高の大好物に。
僕は久しぶりに満面の笑みを浮かべた。
あまり長くなる予定ではないです
ざっと10話くらい