絶望
拒絶するような瞳を向けて、謝られたって虚しいわ。
拒絶するような冷たい声で、”きみ”だなんて呼ばれても、苦しいし悔しいわ。
あなたがあの人と同じ見た目、同じ声、それだけに苦しくて堪らないのよ。
だけどあの人ならば、必ず私のところに戻って来てくれるって、信じたい気持ちもあるのよ?
愛しているから、これからの未来もあの人と一緒に入れると思いたいから、信じ性質お思う気持ちも大いにあるの。
それなのに、叶わないという……現実を認めようとしてしまう。
信じきれないの。
これは、愛しきれていないということなの?
苦しいわ。辛いわ。悔しいわ。悲しいわ。
何度も私の脳を満たし狂わせようとしてくる感情を、私はどうにか押し隠すの。私の心を埋め尽くし、少しの隙があれば私を乗っ取ろうとする感情を、言葉をどうにか押し留めるの。
優しい私になって、あの人を信じて待とうかしら。
それともあなたの言うとおり、もうあの人は死んでしまったものだと思って、切り替えることにするべきなのかしら。
どちらを選んでも、私は狂ってしまいそうな気がしたわ。
だけどね、それだから、それだからこそなのよ。
彼が望んでいることをすることが、私が今の彼のためにできる、唯一のことなのじゃないかと思うの。
そう、彼の望んでいること、私があの人をもう忘れるということ。
あなたにあの人を求めても、悪戯に傷付き合って、それで終わりの惨劇だものね。
お互いに、これ以上は幸せにならないって思うわ。
苦しくて堪らないけれど、現実と向き合って、私はよく考えたの。
私が前に進むためには、そしてあなたのためには、何ができるのだろうかとよーく考えたの。
考えている間だけ、猶予としてあなたの隣にいられることが、喜びでもあっただけなのだとも思うけれど。
だって答えなんて、最初から決まっていたから、出そうと思えばすぐに出せたわ。
あの人が消えてしまったなら、私も消えてしまえばいい。
あの人が私を忘れてしまったなら、私もあの人を忘れてしまえばいい。
たった一人で胸に抱える思い出ならば、そんなものは必要ない。
両想いから始まった恋は、今更になって片想いになったと言われて、その現実の中で生きていけるほど強いものではないわ。
だから、全て消えてしまえばいい。
そんな考えに至る時点で、私ももう、壊れてしまっていたのかもしれないわね。
「あぁそうね、きっとそうなのね」
病院を退院するまでは看病を続けたけれど、病院を出て、どこへ行くのかは聞かなかった。
会えるのに会ってはいけないことならば、会えないことの方がよっぽどましだと思ったんだもの。
そうしてあなたに会うことなく過ごすうちに、全てを忘れるのよ。
恋も、青春も、愛も、あの人も、あなたも、約束も、想い出も、感情も……
今までの私を全て忘れてしまうの。
一から始めるのだわ。何もない私で、最初から始まるのだわ。
もう、希望なんて抱けない、何も残っていない壊れた私で。