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第8話 勇者パーティーとの遭遇

「ん? なんだ、あいつは?」

「うん、なんだろーねえ」

「誰かしら。こんなところにいるなんて、ちょっと変じゃない?」

「…………」


 男が一人。あと若い女の子たちが三人。

 それがわたしたちが遭遇した勇者パーティーでした。


「おーい、そこで何をしてるんだ? そんなところにひとりでいたら、危ないぞー?」


 腐っても勇者です。

 向こう見ずな性格とも言えますが……。

 とにかく彼は、そんなことを叫びながらわたしたちのもとへとやってきました。


 短い茶髪に、柔和な顔つき。

 いわゆる優男、と呼ばれる容姿です。

 男らしいというよりは、どことなく中性的な印象をわたしは受けました。


 背の高い彼は、腰に大剣をぶら下げています。

 十代後半……わたしと同じくらいの年齢でしょうか。でも、なんだかもっと幼く見えます。


 クラーラさんはパタパタと飛んでいましたが、勇者が近づくとフワリとわたしの頭の上の帽子にまた戻ってきました。


「それ以上近づくな、ニンゲン!」

「うわっ」


 いきなりクラーラさんが威嚇したので、わたしは驚きました。

 勇者も驚いて剣を抜きます。


「な、なんだ? やっぱりモンスターか!」

「モンスターとは無礼な……。このお方をどなたと心得る! 『魔界の王も恐れるハイウィッチ』、『始まりと終わりの魔女』、マジョコ様なるぞ! 控えおろう!」


 某時代劇で、そんな名乗りシーンがあったようなないような……。


 というか、「魔界の王も恐れるハイウィッチ」とか「始まりと終わりの魔女」ってなんですか? わたし、そんなこと名乗らされるなんて一言も聞かされてないんですけど!


 ――マジョコ、いいからここは私にまかせておきなさい。


「…………!」


 念話、なる魔法をクラーラさんが初めて使ってきました。

 うわー感動。これですよ、これ!

 テレパシーのように脳内に声が直接……! 聞こえてくるアレです!


 わたしはドキドキしながらもこくりと頷いて、様子を見守ることにしました。


「ま、魔女の、マジョコ……」


 ぽかんと勇者は口を開けています。

 かと思うと、すぐさま大声で笑い始めました。


「あは、あははははっ! 魔女でマジョコって……じょ、冗談だろ! なんでまんまな名前なんだよ。あははははっ!」


 カチンと来ました。

 そりゃあ、そのまんまのネーミングですよ? でも、わたしにとっては、愛着が湧いてきた名前なんです。それを、初対面の人にいきなりバカにされ、笑われるとは……。


 ――マジョコ、大きな岩をどこからでもいいです。転移させて、あのクソ勇者の近くに落としなさい。


 あら、クラーラさんもカチンと来たみたいですね。

 たしかに、せっかく魔王様が考えた名前をバカにするってことは、魔王様のことも冒涜しているってことになりますもんね。

 いいでしょう。わたしの力、とくと思い知らせてやりましょう!


「えい」


 わたしは右手を勇者のすぐ横に向けると、気合を入れました。

 するとすぐに空から大きな岩が落ちてきます。


 ずどん。


「う、うわあああっ!」

「レオン!」

「レオン君!」

「…………!」


 ひっくり返って情けない悲鳴をあげる勇者を見て、三人の女の子たちがあわてて駆け寄ってきました。

 勇者のすぐ横には、二メートルは超す大岩が地面にめりこんでいます。


「大丈夫かい、レオン!」

「これ、あの人がやったの?!」

「…………」


 三人の女の子のうち、最初に勇者に声をかけてきたのは、わたしよりも少し年上っぽい人でした。

 スケスケの踊り子のような衣装で、長い金髪をポニーテールにしています。

 胸がかなり豊満で、露出度も高かったので、女のわたしでも目のやり場にすごく困りました。


 次に声をかけたのは、わたしと同じくらいの女の子で、明るい茶色の髪をツインテールにしている子でした。

 細い剣を持っており、なんとなく女騎士といった風貌です。

 つり気味の意志の強そうな目をしていました。


 最後に無言でこちらを見てきた女の子は、小柄でわたしよりも三、四歳は年下の子でした。

 中学生くらいですかね。

 ショートカットの黒髪で、肌が若干浅黒い子でした。全身にいろんなアクセサリーを身につけて民族衣装のようなものも着ています。

 弓をこちらに向けていましたが、耳がとがっていないのでエルフ……とかではなさそうでした。


 そんな三人がへっぽこ勇者のまわりを取り囲みます。


 ああー、マジで殺意が湧いてきました、これ。

 いざハーレム状態の光景を目の当たりにすると、相当イライラしますね。こめかみがピクピクとしてきます。


「レオン、というのか。そいつの名は。マジョコ様に無礼を働くでない! 次はないぞ!」


 わたしの代わりにクラーラさんが声を張り上げてくれます。


 クラーラさん、もういいでしょう。

 これ以上やるとそろそろ敵対心を煽りすぎちゃいますよ。


「あんた、何者か知らないけどねえ。一応この子は勇者、なんだよー? レオンっていうんだけどさあ。あ、あたしはアザレア」


 金髪の踊り子風の女性が、勝手に自己紹介してきました。

 わざわざ名乗ってくるなんて、意外と良い子そうですね。

 若いのに、姐御口調なのが少々気にはなりますが。


「こ、こんなことして、い、良いと思ってるの? さてはあんた……魔王の手先ね!」


 ぶるぶると震えながらレイピアの切っ先をこちらに向けてきた騎士風のツインテールの子は、そんな当たり前の感想を言ってきました。

 ほらー、だからクラーラさん、敵認定されちゃうって……。


「リリィ、この人は……ただの人間。そのコウモリの方はどうか知らないけど……たぶん、敵じゃないと思う……」

「ネモ! だって、この人はレオン君を……!」


 ぼそぼそとしゃべりはじめたのはネモって名前の子のようです。

 そしてツインテールの子はリリィと言うみたいですね。


 ネモちゃんは……民族衣装みたいなのを着てますが、不思議な力でもあるんでしょうか。わたしが人間だというのをすぐに見抜いてきました。


 見た目や行動からすると、めちゃくちゃ怪しい人物ですけどね。わたし。

 クラーラさんというしゃべるコウモリも従えて? ……いますし。

 なのに「敵じゃない」と判断したなんて、いったいどういう基準なんでしょうか。わからなくて逆に警戒してしまいます。


「とにかく……リリィ、あの人がなんでここにいるのかを……まずは訊いてみないと……だよ」

「その通りだ」


 ネモちゃんの声に、ひっくり返っていた勇者がむくりと起き上がります。

 たしか……レオンって名前でしたっけ。


 勇者レオンは、女の子たちを見回して言いました。


「俺なら……大丈夫。あ、当たってないし。ちょっと驚いただけ……」

「それなら良かったー」

「もうっ、心配させないでよね!」

「驚き……すぎ……」


 なんか和やかなムードが流れはじめます。

 なんなんでしょうか、このやりとり……。まさかずっとこんな茶番をしながら旅を……?


「えっと。マジョコさんって言ったかな? 悪かったよ、名前のこと笑ったりして」


 仲間同士の会話が終わると、勇者レオンは長い前髪を手で払いのけながらそう言ってきました。

 な、なんですか、このキザなしぐさは……?!

 さ、寒気がします!


 まあ、普通っていうか、それなりに整った顔ですけどね、でもべつにそこまでイケメンっていうわけでもないです。この勇者。

 なんなら魔王様の方がかっこいいくらいです。

 それなのに、どうしてこんなにモテているのでしょうか……不思議です。


 あと、いったいなんなんでしょうね、この「自信」。

 誰でもこんな話しかけ方と流し目をすれば、自分に惚れると思い込んでいる……みたいな。そう思っているのが、こちらにビシビシと伝わってきます。


「どうか、許してくれないかな? こんな人気のない場所で、いきなり君みたいな美人に会ってしまって、俺もついテンパっちゃってね。お願いだ、この通り。ごめん」


 そう言って、レオンは深々と頭を下げてきました。

 そうすれば、許してもらえると思ってるんでしょうね……。

 はあ。

 この人、つくづく人を馬鹿にするのが好きみたいです。んー、やっぱりムカつきます!


「あれれ? おかしいな……」


 わたしが眉を寄せながらずっと無表情でいたので、彼は大げさに首をかしげてみせました。

 まさか今のでコロっといくとでも思っていたのでしょうか?

 うわっ。だとしたら、ものすごく気持ち悪いです。鳥肌が立ちまくりです……!


「バカにするのも大概にしろ、ニンゲン! マジョコ様は魔界の森に立ち入ることを許された、唯一の存在だ。そんなすごいお方に対して、図に乗るな!」


 またクラーラさんが声を張り上げてくれます。


 ていうか、クラーラさん? なんなんですか、そのさらなる「設定」は? 

 それもわたし、全く聞いてなかったんですけど……?


 あ、ほらほら勇者たちがまた疑惑の目を向け始めてますよ。ど、どうすんですか、これ……。


「魔界の森に立ち入ることを許された唯一の存在……? ど、どういうことよ。あんたやっぱり!」


 ほらー、リリィとかいう女の子が一番疑ってます!

 それでもクラーラさんは動じることなく、こほんと咳払いを一つすると言いました。


「別に魔王の手先などではない。マジョコ様はこの森の薬草を手に入れるために、一時的に許可を得ているだけなのだ。誰の下にもつかず、常に中立を守っておられる、孤高の魔女様なのだぞ!」

「し、信じられないわ、そんなの!」


 そう言って、またリリィが食ってかかってきます。


「別に信じられぬのなら、それでも良い。それより、お前たちこそなぜこんなところをうろついている?」

「わ、わたしたちは……」

「俺たちは、魔王を倒しに来たんだ! けど、どうやってこの森に入っていけばいいかわからなくて……」


 リリィが口ごもっているのを押しのけて、レオンがそう言ってきます。

 わたしは「嘘でしょ!」と、すぐさま心の中でツッコミました。


 彼がこの辺でうろうろしている真の理由はわかっています。彼らは、いかにして魔王を倒さないまま、ずっとこのハーレム状態を見せつけられるかを考えているだけなのです。

 それが真実なのに……あえてそんなことを言っているということは……。


 ――たぶん、こいつはあなたの前でいい恰好したいだけでしょうね。


 クラーラさんの意見に、わたしは激しく同意しました。

 で、ですよねー。

 やっぱこいつ、ものすごいバカ……なようです。


「レオン……?」

「レオン君?」

「…………」


 ほら、女の子たちもなんだかんだ動揺しています。

 そうじゃなかったでしょ、みたいな顔ですね。まあそう思うのも当たり前ですが……。


 レオン君……さあさあさあ、ほらどうするんですか?

 引っ込みつかなくなっちゃってますよー?


「頼む。君にしか頼めないんだ、マジョコさん! ここのことに詳しいなら……俺たちにこの魔界の森を案内してもらえないか!」


 はいいぃ?

 信じられないことでしたが、この「かっこつけ」勇者は……あろうことかそんなことをわたしたちにのたまったのでした。

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