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第4話 命名マジョコ

「え? クラーラさんが……わたしのサポートに?」


 サキュバスだと言っていたクラーラさん。

 小柄ですが、よく見ると胸がとても大きいですし、色気ムンムンな服装もしています。声もすごく色っぽいし……こんなお人形さんのように美しい女性なら、すぐに勇者もメロメロになってしまうでしょう。


 それなら……うん、とても心強い味方がついてくれるなら、なんとかなりそうですね。


「ほ、本当ですか! それだったら……」

「ですが」

「え?」


 急にクラーラさんが真顔になります。


「本当に、あくまでサポート役です。主に活躍するのはあなたです。私が表に出すぎると、この作戦は意味がなくなってしまいますからね」

「えっ。そ、そうなん……ですか?」


 ええー、それはちょっとガッカリです。

 サポートと言っても、少し離れたところから指示とか、そういう裏方風な支援になるんでしょうか?


「それと、あなたが敵に寝返らないかどうかという『監視役』も兼ねます」

「か、監視!?」


 こ、この人とうまくやっていけるでしょうか……。

 わたし、ものすごい「コミュ障」なんですけど。

 普通にしてても会話のやりとりすら怪しいのに、監視とかそういうマイナスな感情持ってるって相手から知らされたら……そんなの、もっとコミュニケーションが難しくなりそうな……。


「とにかく、そういう条件で任務にあたってもらいます。二人体勢です。この条件は絶対、です」

「はあ……。わ、わかりました」


 そういうことなら、もうそれで納得するしかありません。

 まあ、一人でやるっていうのも、もともと自信なかったですしね……。


「あなたは、人間として近づき、勇者たちの内情をそれとなく探り、弱点を見つけ、ときには仲間だと信用させ、そして時には仲間割れへと誘導する……そういう仕事をしていただきます。あと、もし勇者に体の関係を迫られたその時は」

「そ、その時は……?」

「私の出番です」

「あ、ハイ……」


 サキュバス、ですもんね、クラーラさん。

 それが本業……ですもんね。

 うんうん。はい、任せましょう。そこは。


「魔王様、ざっとこんなところでしょうか。あとは、契約を交わすだけかと」

「ああ。ありがとう、クラーラ」


 ここまで話すとクラーラさんはまた魔王様にバトンタッチしました。


「さて。じゃあ真島妖子、だったかな。どうだい。そろそろこの仕事、引き受けてくれる気になったかな?」

「えっ……ど、どうしてわたしの名前……」


 フルネームをずばりと言い当てられて、わたしはビックリしました。

 名乗ってもいなかったのに、どうして……。


「ああ、異世界を覗き見てた時にね、その中から最も適した人物を選んでたんだけど……その時にいろいろな人間の思考も読み取ってたんだ。そう、君のこともね。だから君の名前を知るくらい、僕にはわけないことなんだ。で? どうする? 真島妖子くん」

「えっと……」


 わたしは、手元にある「ハーレムクラッシャー・ビジョコ」を握りしめました。


 現世では、何もできませんでした。

 ただ心の中でリア充どもに呪詛を吐き続ける以外には……。


 でも、この異世界では、なにやら凄そうな「魔法」と「美貌」を手にして、あいつらをぎゃふんと言わせることができるかもしれないのです。


「やらないなら、このまま元の世界に戻すよ。でも、やるなら、しばらくこの魔界で仕事をしてもらう。その間の生活は、僕とクラーラが保障するから安心してくれ」


 ダメ押しで魔王様がさらに魅力的なことをおっしゃいます。

 わたしは、今がチャンスと思って、気になってたことをついでに訊いてみました。


「あの、もし……このお仕事をやるとしたら、いつまでやることになるんでしょうか」

「んー、そうだなあ。適性もあるから、まずは一つの勇者のハーレムを壊せるかどうかを見てからになるかな。その時点で適性がないとわかればそこで終わり。でも適性があるとわかったら、彼らがいやがらせに来なくなるまでは続けてやってほしいなあ」

「ってことは、すごく期間が長くなるかもしれない、ってことですね……」


 やっぱり大変そうです。

 どうしようかなー。やめよっかなあ……。


「まあ、帰りたくなったら、いつでもあの連れ去った時間の同じ場所に戻してあげるけど。士気にも関わることだからね。君にイヤイヤやってもらうよりは、また別の人間を探しに……」

「そ、それ、早く言ってくださいよ!」


 いつでも帰れるなんて、実はめっちゃ好待遇だったんじゃないですか?!


「……だったら」


 元の世界では、毎日代わり映えの無いつまらない日々でした。

 良い思いをすることは生まれてからずっと、ほとんどなかったように思います。地味オブ地味……いわゆる日陰の人生を送ってきました。


 でも今、この時、この世界でなら――。

 変われるかもしれない。


「わかり……ました。やりましょう!」


 わたしはついに、そう答えていました。


「え? なに? やって、くれるの?」

「はい!」

「本当、に?」

「はい!」


 すると、パアッと魔王様とクラーラさんの顔が輝き出しました。


「や、やったっ! う、嬉しいよー。じゃあ頼むね、ハーレムクラッシャーの仕事!」

「あなただけが、頼りです。お願いいたしますね」


 予想以上に二人に喜ばれたので、わたしは妙に照れてしまいました。

 ほっぺがちょっと熱いです。


「は、はい……」

「じゃあ契約成立ッ! さっそく記念のプレゼント、あげるね!」

「あっ……はい」


 キタコレ!!!

 ついに、ついに、例の魔法……と美貌がもらえちゃうんですね? い、いいんですか本当に?

 わー、ドキドキします!


「あ、その前に」

「はい?」

「君には、今の『真島妖子』という名を捨ててもらいたいんだけど」

「は?」


 え? 名を……捨てる?


「これから『魔法の付与』と、『姿変換』のための儀式をするんだけどさ、契約した者の『真名』を生贄にささげないといけないんだよ。だから、違う姿になってる間は……んー、つまり『仮の名前』になるんだけど、いい?」

「あ、あー……そうなんですか? えーはい、いいですよ!」


 わたしは驚きつつも、すぐに同意しました。

 特に自分の名前にこだわりはなかったからです。

 この名前……「読み」は普通ですが、変な漢字が一文字入ってますからね。「妖」って。てかひどくないですか? 妖怪の「妖」、ですよ? 普通つけませんよ女子に「妖」って。


「元の姿に戻す時には、名前もちゃんと戻してあげるから。ね?」

「はい、別にいいです」


 魔王様はなんかフォローを入れてくれましたが、わたしはまったく気にしていませんでした。

 あ、でも一個だけ気になりましたね。

 新しい名前の方です。


「で、つけるとしたら、今度はいったいどんな『名前』になるんですか?」

「それも、こっちで決めて良いかな?」

「……はい。別に、特に考えてないですし。いいですよ、お願いします」


 名付け親は魔王様、ですか。

 まあ、ハンドルネームとか、普段からわたしあまりネットとかで使ったことなかったんで、すぐには仮の名前の案も思いつかなかったんですけどね。

 で、結局決めてもらうことになりました。

 あとから考えると……これが良かったんだか悪かったんだかって、名前になりましたね。


「じゃあ、真島妖子……マジマ・ヨーコだから、そうだな『マジョコ』っていうのはどうかな?」

「……ま、マジョコ」

「そう」


 なんとひねりのないネーミングでしょうか。

 でも、それは奇しくも……あの大好きな「ビジョコ」と似た語感の名前でした。


「き、気にいらなかった? べ、別のにする?」


 魔王様はわたしがぽかんと口を開けっ放しにしていたので、少し心配されたようでした。

 でも、わたしはすぐに満面の笑顔になります。


「いいえ! マジョコ。そ、それでお願いします!」

「そうかい。じゃあ『マジョコ』さっそく僕からの、スペシャルプレゼントを受け取ってくれ!」


 こうしてわたしは魔王様から、魔法と美貌をいただくことになったのでした。

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