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第3話 魔王様の面接

「あ、あの……わたし面接を受ける、って言った憶え……な、ないんですけど……?」


 面接する気満々、という二人に対してわたしは勇気をふりしぼってそう言います。

 でもダメでした。

 魔王とおっしゃる方は、嬉しそうに笑っているだけです。


「ふふ。本当にそうかな? 少なくとも僕は、見込みのない者をスカウトしたりはしないよ。なにしろ君には『素質』があるんだからね」

「そ、素質……?」

「ああ。ハーレムを嫌悪し、それを破壊し尽くそうとする素質、だよ」


 魔王様は、人間らしからぬ赤い瞳をキラリと光らせて言いました。

 

「この世界の人間は、みな訳あってハーレムには肯定的なんだ。だから僕たちは、『協力者』をこの世界で募ることはできなかった。でも試しに異世界を探してみたら、君という素質のある人材を見つけることができたんだよね。君は……機会さえあれば、そういう恋愛において充実している男女たちをどうにかしたいと、そう思ったことがあるんじゃないかな? というか、現にさっきそう思ってたろう」

「…………」


 たしかに、図星でした。

 わたしは先ほどの書店で、必死になって助けを求めていた時のことを思い出します。

 あいつらを簡単に押しのけたり、解散させられる力が欲しいと。あの時は本当にそう願っていました……。


「僕にはそれを叶えてあげられる力がある。今の君は無力だが、僕が強力な魔法と、そして誰しもがうらやむ美貌を与えてあげよう。そうすれば……」

「ま、魔法と……美貌……ですか?」

「ああ。その二つの『武器』があれば、気に入らない男女、もしくはその集団を壊滅させることができるはずだよ」

「…………」


 そんなすごい力を、わたしが手に入れられるかもしれない、ですって?

 強力な魔法と、美貌……。

 なんて、なんて魅力的なお誘いなんでしょう!


「どうだい? いい提案だと思うんだけどね。僕らは目障りな勇者たちをどうにかしたい。君はハーレムを蹂躙したい。お互い利害が一致していると思うんだが。ここまで聞いて、それでもまだ、この面接を受けてみる気はないかい?」


 わたしは、少し考えた末、目の前のパイプ椅子に座ることにしました。


「詳しいお話を、お聞きしましょう」

「おおっ! 嬉しいよ。ようやくその気になってくれたんだね!」


 まあ……話を聞くだけならタダですし。

 せっかく異世界にきたのですから、少しは検討してみるのもいいかもしれません。


 条件が良くなければ、単に断ればいいだけですからね。

 まあ、そうした後のことは、どうなるかわかりませんが……。


「じゃあ、まず今回の求人を行った趣旨について話すよ。最近の勇者たちってさ、すっごく対応が面倒なんだよね。僕らを本気で討伐する気は、ないみたいでさ。その代わりとっても卑怯ないやがらせをしてくるんだ」

「いやがらせ?」


 なんだか勇者らしくない話に、わたしは首をかしげます。


「ああ。彼らはこの魔界の近くに出没しては、勇者パーティーのメンツ同士でイチャイチャしているのを、見せつけてくるだけなんだよね。魔族はこう見えても、一途でね。生涯一人の相手を想い続けるっていう価値観の者が多いんだ。だからハーレムとか、男女の乱れたやりとりをあんな風にわざと見せられると……めちゃくちゃ精神的なダメージを受けてしまってね」

「ああ……それ、なんとなくわかります……」


 わたしもそんなことを意図的にされたら、頭に来るか、気がおかしくなってしまいそうです。


「僕も含め、魔族が対応するのはちょっと辛いものがあってね。だから代わりに他の種族にやってもらうことにしたんだよ。でも、『訳あって』この世界の魔族以外の者には、頼めなくてね。そこで、異世界から君みたいな人間をスカウトしてくることにしたんだ」

「そう……だったんですか。でも『訳あって』っていったいどういうことですか? みんな敵とか、そういうこと……なんですか?」

「まあ、言っちゃうと、そうだね。価値観の違いが、大きすぎるんだ。この世界の種族の大半は魔族以外、みーんな『ハーレム推進派』ばっかりなんだよね」

「は、ハーレム推進派?」


 なんだか突然、ビックリワードが飛び出してきました。

 魔族以外……ってことは人間も含め、他の知性のある生き物はみーんなハーレムを作ることを目指しているってことでしょうか。

 なんて世界なんだ、ここ……。


「まあ、あと詳しいことはクラーラが話すよ。じゃあ、仕事内容とかまとめて教えてあげてくれるかい、クラーラ」


 魔王様はそう言って、クラーラという少女に話を振ります。


「はい、かしこまりました。そういうわけで、この魔界には魔族を『ハーレム推進派』に染めようと、勇者たちが『勧誘』という名のいやがらせにやってきます。あなたにはそういう勇者たちに、同じ人間という立場を利用して近づき、彼らが形成するハーレムをぶち壊していただきたいのです」


 なるほど。それが求人にあった『ハーレムクラッシャー』のお仕事なんですね。


「ん? そ、それってけっこう重要な役目……じゃないですか?」


 今気付きましたが、そういえばこの任務って、とっても重要な案件のような……。

 魔族にできないことを、このわたしがやるなんて……荷が重すぎじゃないですかね?


「ええ、とても重要な役ですよ。あなたがいなければ、我々はずっとやつらのいやがらせに遭い続けなければならないんですから。こちらから、物理的に人間たちをやっつけに行ってもいいんですが、それだと数の差が歴然で、あっという間にやられるのがオチ……なんですよね」

「ええっ? そ、そうなんですか? ちなみにその比率ってどのくらい……」

「はい。むこうが九だとしたら、こちらは一、くらいです」

「九対一?!」


 少なっ。

 この世界の魔族、数減らしすぎじゃないですか?

 そんなんだったらいつだって滅ぼされちゃいそうです。


「人間たちは、常に数の優位に立ち続けてきましたからね、こんないやがらせをしてくる余裕があるんですよ。今までは黙って耐えてきましたが、もうみな我慢の限界ですね」


 ふるふるとクラーラさんも魔王様も小刻みに肩をふるわせています。

 ああー、その気持ちすっごくわかります。

 もう爆発寸前……のようですね。


「わ、わかりました。魔族の皆さんの現状……。そうとうお辛い状況だったんですね。あの、わたしお話を聞いてるうちに、何か協力したいって気持ちになってきました。でも……そんな大役……やっぱりわたしなんかに、できるかどうか……」

「あ、そういった心配は無用です。私がサポートに付きますから」

「え?」


 顔を上げると、クラーラさんがその美しい顔でにっこりとほほ笑んでいました。

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