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第2話 異世界転移?

「いっ、痛あっ!」


 ドサッと床に放り投げられたわたしは、打ち付けた膝を思わず押さえました。

 見上げると、そこはとてつもなく広い空間です。


「えっ? なに、ここ……?」


 目の前には、とても高い天井と、長ーい真っ赤な絨毯がありました。

 その先は見えません。奥に行くにつれてどんどん暗くなっていたからです。手元には「ハーレムクラッシャー・ビジョコ」の本……。


 どうやらわたしは、あのラノベ売り場から一瞬でここへ移動してきたようでした。


「ようこそ。魔王の城へ!」

「選ばれたことを光栄に思いなさい。ニンゲン!」

「うわっ!」


 突然後ろから声がしたので振り返ると、横長の机と椅子、そして座っている男性が見えました。その横にはもう一人、小柄な少女が立っています。


 二人はわたしに満面の笑みを向けていました。

 頭上にはシャンデリアのような照明。

 そのおかげで、この周りだけ妙に明るくなっていました。わたしの頭には、?マークばかりが浮かんでいます。


「……えっ? あ、あの、誰? ていうか、ここ……何なんですか?」


 異様な空間です。しかもこの二人、両方とも妙な格好をしています。

 コスプレ……でしょうか。


 男の人は、頭に茶色い二本の角。長い黒髪に真っ黒なマント。

 そして、貴族っぽい服を着ています。


 立っている少女の方は、美しく長い闇色のウエーブヘアに、なんとも露出が激しいメイド服……。


 さっき「魔王の城」とかなんとか聞こえたので、そういうコンセプトのお店……なんでしょうか? あの書店の裏側にこんなお店があったなんて、まったく知りませんでした……。


「僕は魔王」

「私は、サキュバスのクラーラです。あなたは、我々の『同志』であると判断され、見事この面接会場へと招待されました。では、さっそく面接をはじめさせていただきますね?」

「えっ。め、面接……?」


 たしかに部屋はただっ広いですが、それっぽい会場ではあります。

 目の前には一脚だけパイプ椅子が置いてありました。


 もしかして、ここがわたしの席……なのでしょうか。

 ですが、そこにはとても座る気になれませんでした。


 この状態があまりにも「変」だったからです。


「あのう、いったい何の……? というか、あなたたち絶対何か誤解してますよ。わたしはさっきの店で……この本を買おうとしてただけです。面接って……なんでわたしここに? あなたたちのことも、全然知らないですし。あの、か、帰らせていただきます! ……うわあっ!」


 カミカミになりながら、なんとかそう言って逃げ出そうとすると、すぐにびたんと前につんのめって転びました。

 見ると右の足首を、真っ黒い爪をした「手」がつかんでいます。


「ひっ、ひいっ!」


 悲鳴をあげると、その手は一瞬にして消えました。

 き、消え……?

 なんなんですかこれは! 


 振り返ると、座っていた男の人がにこにこしています。


「あ、ごめんねー。一応話だけでも聞いていってくれないかな? こっちもそれなりに労力(コスト)がかかってるんでね」


 机の上で指を組んでいるその手は。爪が……真っ黒でした。

 あれは、さ、さっき、わたしの足首を掴んでいた手、でしょうか。そんなバカな……と思いましたが、たしかに同じもののようです。


 ど、どうやってあの位置からわたしの足を……さっぱりわけがわかりません。

 ごくりと唾を飲みこみながら、わたしは男の人を見ました。


「あの……は、話って……なんですか?」


 魔王と自称した男の人は、にこりと微笑むと穏やかな声で言いました。


「君、さっきのあの『求人広告』見たよね? 【急募】ハーレムクラッシャー。勇者たちのハーレムをぶち壊すだけの簡単なお仕事です、ってやつ。あれは僕たちが出した求人案内なんだよ」

「え? あれ、あなたたちが……?」


 意外な事実に、わたしは目を丸くします。


「てっきり本屋の店員さんかなんかが……書いたんだと思ってました。ですが……違ったんですね」

「ああ、そうなんだ。あれは僕たちのだよ。最近、この魔界にやってくる勇者たちにとても悩まされていてね。それを一緒に撃退する仲間を探してたんだ」

「ゆうしゃ……?」


 わたしは首をかしげます。


「な、何……言ってんですか? あの、ふざけてるとわたし、本当に帰りますよ?」


 言っていることがおかしすぎて、なんだか妙にイライラしてきました。

 ただでさえ、早くこのラノベを読みたいのに……そんな茶番みたいなことに付き合わされるんだとしたら、耐えられません。


「ふざけてなどいないよ? 君はたしかに、この世界じゃない『異世界』から召喚されたんだ。それも、僕たちにね。信じられないかもしれないが本当のことだ。勝手に帰ろうとしても、無駄だよ」

「う、嘘……」


 ふるふると震えながら、手元の「ハーレムクラッシャー・ビジョコ」を見ました。

 そんな、ラノベの世界みたいなことが……現実に起きるなんて……。


 呆然としていると、メイド服の少女がわたしに話しかけてきました。

 

「ならば、どうかこちらをご覧ください。あなたはこの『魔法の鏡』を通って、ここへやって来たのですよ」


 少女の後ろには、豪華な金色の縁の「鏡」がありました。

 長方形のとても大きなやつです。ほら、小学校の階段の踊り場にあるようなやつ。

 ですが、その「鏡」は……よく見るとかなりおかしいものでした。一見鏡のように見えるのに、実際は何も映し出してはいなかったのです。


 鏡面に見えるのは、墨汁のようにドロドロとした闇色の渦、でした。


「あ、あのドロドロは……」

「ふふ。そうです。この腕にも……見覚えはありませんか?」


 そう言って、少女が己の細腕を見せつけてきます。

 それは真っ赤な爪が印象的な、あの「腕」でした。わたしの顔というか頭を強くつかんできた……。


「まさか。さっきの本屋さんでの出来事は……あ、あなたたちがやったんですか? 本当にわたし、異世界に召喚されて……?」

「ふふ。さあ、理解してもらえたなら、その椅子に座ってください。今もクソむかつく勇者たちが私たちの側をうろついていますのでね。こちらも早急に人材を確保したいのです」

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