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第17話 勇者へのお仕置き

 ――さて、マジョコ。ついに勇者どものハーレムを解体させることができましたね。おめでとうございます。ここまで、本当にお疲れさまでした!


 クラーラさんが、さっそく念話魔法で労いの言葉をかけてきてくれます。

 わたしは少しこそばゆくなりながら、心の中で返事をしました。


 は、はい、とりあえず上手くいって良かったです。でも、わたしがやったというよりは、勇者たちが勝手に仲間割れをしていったというか……。


 そう、わたしはほとんど傍観しているだけでした。

 会話もほとんどクラーラさんにやってもらってましたし……。

 そんな申し訳ない気持ちでいると、クラーラさんが優しく励ましてきてくれました。


 ――ああ、たしかに。あなたはあまり、自分がやったという実感がないかもしれませんね。ですが、あなたがその「美しいニンゲンの姿」で囮になってくれなければ、今回の作戦はこんなに成功していなかったのです。本当によくやってくれました。ありがとうございます、マジョコ。


 褒められ……ました。あとお礼も言われました。

 生まれてこの方、こんなふうに誰かから褒められたり、ありがたがられたことってあんまりなかったですが……。

 こう面と向かって言われると、ものすごく照れますね。


 こちらこそ、ありがとうございます。クラーラさん。

 実際目の前でリア充たちが仲間割れしていくのは、ものすごくスカッとしました!


 ――ふふ、そうですか。ではこの後、もう一仕事だけして終わりにしましょうかね。


 え? ここで終わり……じゃないんですか?

 もうハーレムは解体したのに。

 まだお仕事は、終わってなかったようです。


 いったいこの後何をするんでしょう。もう何も残っていない勇者に……さらにお仕置きでもするんですかね?


 ――ええ。まあそんなところです。あなたがあのクズ勇者に直接制裁しに行ってもいいのですが……たぶん今の彼はとても危険でしょうからね。まずは私が対応いたしましょう。


 ん? 危険?

 なにが、でしょうか。

 わたしが首をかしげていると、クラーラさんはわたしの胸元から飛び出して、ポンッと白い煙を出しました。

 すると、いきなり目の前にはもうひとりの「わたし」が――。


 えっ!? ど、ドッペルゲンガー? ……じゃない。

 こ、これは……。


 ――幻術で、あなたに変化してみました。どうです、そっくりでしょう?


 こ、こんなこともできるんですね! クラーラさん。

 それは「わたし」に変化したクラーラさんでした。


 ――ええ。幻術は、基本どんなものにも変化できるのです。見る者の知覚を惑わしているだけですからね。


 へええ~、便利ですねえ!


 ――これで、これからあの勇者に話しかけに行ってきます。彼もきっと私と「同じこと」を望んでいるでしょうからね。たっぷりと「いただいて」きますよ。ああ、あなたはその間、ここにいてもいいですし、耐えられないのなら魔王様のところへ先に戻っていてもかまいません。「終わったら」またお呼びしますからね。


 へ? ど、どういうことですか?

 同じこと、って? いただいて……? 終わったら、って何がですか?


 わたしが固まっていると、特にそれらについて説明せずに、クラーラさんは勇者のところへ歩いて行ってしまいました。

 え? お、教えていってくださいよぉ!!


「ん、んんっ……」


 大地に寝そべっていた勇者は、ようやく意識を取り戻したようでした。

 上半身だけ起こして、リリィに殴られた頭をさすっています。

 というかその顔も、まだアザレアの張り手の痕があってひどい状態のままなんですけどね。ふふ……いい気味です。


 わたしに変化したクラーラさんが、ゆっくりとそこへ近づいていきます。


「勇者レオン、返事を聞きにきた!」


 こ、声が。「わたし」の声です!

 すごい。幻術って声真似も完璧なんですね! は、話し方はちょっと違ってますが……。


 わたしがひどく感心していると、うずくまっていた勇者はすぐに元気を取り戻し、がばりと起き上がりました。


「ま、マジョコさん!」


 その目はなんだか熱を帯びています。

 なんだかゾクッとしました。

 あれはクラーラさんなのに……勇者が見ているのは「わたし」なのです。なんといいますか、すごく厭な視線です……。


 クラーラさんは存分にその視線を受け止めると、周囲を見回しました。


「ふむ。他の女たちがいないようだが……? もう、答えは出たようだな」

「ああ。あいつらには悪いが、パーティーのメンバーを抜けてもらった。俺には、マジョコさんがいればそれでいい」

「そうか。では、さっそく行くとしよう」

「その前に……」


 ぐい、と、勇者は歩き出そうとしたクラーラさんの腕を掴みました。


「なんだ?」

「マジョコさん、俺に『関心がある』とか言ってたけど、あれはどういう意味だったんだ?」

「どういう意味、とは?」

「俺に気があるってことなのか?」


 じっと勇者が、わたし……じゃない、わたしに変化したクラーラさんを見つめます。

 おおっ。あれ、もしかして口説こうとしてるんですかね?

 く、クラーラさん! ど、どうするんですか……ッ?


「ふふ。もし、そうだと言ったらどうする?」


 クラーラさんは。ニヤリと笑って、自分の腕をつかんでいる勇者の手を、反対の手で撫ではじめました。

 う、うわー。なんか知らないけど、アレ、すごくエロいです!

 完全に相手を悩殺しにかかってますよ。


 勇者は一瞬、腕を離すと、わたし……じゃない、クラーラさんをぎゅっと抱き寄せました。


「この森の影響を受けていないのなら……君は俺の『魅了』にかかっているはずだ。だから、なのか? だからそんな風に……。それとも、この『魅了』の力さえ通じていないのか?」


 そう言って、真剣な瞳でクラーラさんを見つめます。

 その勇者の顔には、張り手の痕。あと頭にはでっかいたんこぶが……ああ、ちょっとそのギャップに笑いそうになってしまいます。う、うぐっ……。


 ですが、そんな笑いをこらえるわたしとは違って、クラーラさんはいたって真面目なご様子でした。いけないいけない。わたしも、笑っている場合ではありませんね。


「さあ? どっちだと思う、勇者レオン……」

「わからない」

「じゃあ、試してみるか?」

「た、試す……?」


 クラーラさんの言葉に、勇者はごくりと唾を飲みこみました。

 え? ま、まさか……。


「ふふ。お前も私が欲しくて欲しくてたまらなかったのだろう? 私は構わない。さあ、望んでいたことをしてみるがいい、『勇者』……レオンよ」

「ま、マジョコさんッ!」


 きゃあああっ。

 そんな。そんな。ああ、クラーラさん。そんな。服をここでいきなり脱ぐ……とか!

 わあああ。こ、ここ、何もない外ですよ?

 それに勇者も……。ああああ! いや! み、見たくない!


 わたしは思わず顔を背けていました。


 でも気になって、また振り返ってしまいます……。

 うわっ。もう二人とも素っ裸になって……。ああ、絡まり合っています。

 ダメです。これ以上はほんと無理!


 ――だから言ったでしょう、マジョコ。耐えられないのなら魔王様のところに行っていなさいと。


 クラーラさんが念話魔法で、声をかけてきます。

 う、うう……たしかに。こ、こういうことだったんですね? これもお仕事……の一環ですか。


 ――「仕事」というより、私の場合これは「報酬」ですね。勇者の精力を吸うこと。それが、私がこの仕事を受けることになったそもそもの「理由」です。


 そ、そうだったんですか……。

 たしかに今の魔界では人間と接するチャンスは少なそうですしね……。この任務につけば、勇者の精力を吸う機会があるかもしれませんし。

 なるほど。

 サキュバスとしてそういう必要にかられていたから、わざわざ会いたくもない勇者たちと接することができてたんですか。


 ――あああっ! 美味し~いっ。これよ! これだわ! 久々のニンゲンの●●●!


 わたしがクラーラさんのことにひとり納得していると、クラーラさんの狂ったような愉悦の声が、いきなり聞こえてきました。

 ね、念話なのでだだ漏れです。

 その他にも……直接あえぐ声まで、風に乗って聞こえてきました。


 だ、ダメだ!

 ここにいるとこっちまでおかしくなってきてしまいます!

 わたしは急いでここから立ち去ることにしました。


「え、えいっ」


 気合を入れ……わたしはとにかくここではないどこかへと転移しました。

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