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第16話 リリィ離脱

「ね、ねえ、なにか言ってよレオン君」

「…………」


 黙ったまま自分を見つめている勇者に、リリィは脅えはじめていました。

 魔王討伐。

 その悲願を達成するために、どうしても彼女は勇者と共にいたいはずです。それが、白紙にされようとしているのですから、今はすさまじい恐怖を感じていることでしょう。


 彼女もまた、この魔界の森においても勇者と共にい続けられていた人間でした。

 ということは、レオンの「魅了」の力よりも、その「野望」の方が強かったということです。


 レオンはそっとリリィの両肩に手を置くと、とても優しい声で言いました。


「ごめんな、リリィ」

「…………!」


 その瞬間、リリィの両目からは大粒の涙がこぼれ落ちました。


「う、嘘……! 嘘って、言ってよ。レオン君! わ、わたしと……や、約束したじゃないっ!」


 しゃくりあげながら、リリィが必死で訴えます。

 しかし、勇者は耳の穴を指でかっぽじりながら、とてもダルそうに答えました。


「そーだっけ? お前の勘違いじゃねーの?」

「はっ? え? そ、そんなわけないっ! たしかにしたわっ。あなたが……勇者だっていうから、わたし……あなたの仲間にっ……」

「俺からお願いしたっけ、それ」

「…………っ!!」


 泣いていたリリィは一気に顔を赤くします。

 あれは恥ずかしさと、怒り、でしょうか……。

 ていうか、勇者、いきなりガラ悪くなりましたね。ここに自分とリリィしかいなくなったからでしょうか。本性を現しましたね。


「そ、それはッ……」

「あー、たしかあの時、お前から言ってきてたなー。うん。たしかミッカ村でだっけ? 俺とネモが歩いてたらさ、いきなりお前から話しかけてきたんだよ。『あなた勇者ね! 魔王を討伐したいなら、わたしが仲間になってあげる!』とかなんとか言ってさ」


 微妙に自分のモノマネが入った勇者の言い方に、リリィはさらに顔を赤くしました。


「別に魔王討伐とか、俺、国王から命令されてなかったし? その『お仲間』も集めてたわけじゃなかったしな。正直何言ってんだコイツ、って思ったよ。でもさ、お前、顔だけは可愛かったし。胸はそれほどなかったけどさあ。まあいいかって思って俺のハーレムメンバーに加えてやったんだよ」

「なっ……れ、レオン君? 嘘、でしょ?」

「嘘じゃねーよ。まあ、そこそこ剣の腕は立つみたいだったから? 便利っちゃあ便利だったよ。道中、盗賊や暴漢が出たりもしたからなー。しかし……俺が望んでるのはそこじゃねえ」


 そこまで言うと、急にレオンはリリィの胸をわしづかみにしました。

 うわあああ、い、いきなり、なにやってんですかっ!


「きゃあああっ」


 当然、悲鳴をあげます。

 ですよね。に、逃げて……。超逃げて! リリィ!


「おい、きゃあああ、じゃねえよ。キスさえまともにさせてくれなかったのによお。俺は、『ハーレムメンバー』を増やしたつもりだったんだよ。なのに……ネモやアザレアはいいようにさせてくれたのに、お前だけは……。ふざけんじゃねえぞ!」

「な、何をするのっ。レオン君!? やめて!」

「何、じゃねえよ。わかってんだろうがっ!」


 そう言って、勇者はリリィの両腕をつかみます。

 うわあああ。ちょっ、あれ本当に「勇者」ですか?

 ヤバいですよ。このままじゃレ●プ犯になっちゃいますよ! ど、どうしましょうクラーラさん!


 ――マジョコ。いいから黙って見ていなさい。


 ええっ。で、でも……。

 と思ったら。リリィが勇者を突き飛ばしていました。レイピアを構え、睨みつけています。

 おお、流石は女騎士ですね。


「やめてッ! 『勇者』がそんなことしないで! わたしは……わたしはそんなことのためにあなたの仲間になったんじゃない!」

「うるせえ! この世界で勇者の仲間になることがどういうことか、わかってねえのはお前だっ!」

「違う! わたしは……そんな勇者のハーレムメンバーになることが、夢なんかじゃなかった。わたしは……わたしは騎士として、魔王を倒し、ユリエンタール家の一員として認められたいの。武勲をあげれば、わたしだって……」

「なにふざけたこと言ってんだあああっ!」


 ふざけたこと。

 そ、それは、どっちかっていうとあなたの方が言ってるんですけどー? クズ勇者さん?

 まあ、そこは置いときましょう。

 とにかく、そんな獣のような雄たけびをあげて、クズ勇者ことレオンがリリィへと突っ込んでいきました。


 その手には例の大剣が握られています。

 あ、危ない! リリィ!


「はあああっ!」


 しかし、リリィは気合いを入れてその振り上げられた剣を弾き返していました。

 そして何度も繰り出される太刀筋を全て読み切って、受け流していきます。

 す、すごい。

 この子やっぱりレオンよりも、ずいぶん強かったんですね!


「く、くそおおおっ!」


 攻めているはずなのに、一向に決定打を与えられないレオンは、だんだんイラついてきました。やたらめったら剣を振り回しはじめます。ですがそれは、より隙を生み出すというもの。

 リリィが、その一瞬の隙をついて、勇者から剣を奪い去りました。


 レイピアにからめとられた大剣は宙を舞い、わたしたちのすぐそばの地面にざくっと刺さります。


 ひえええっ!

 ちょっ、ちょっと。今、当たりそうになりましたよ!


「くっ……」


 レオンはガクッと膝をついて、うなだれています。

 リリィは細剣を鞘に納め、憐れむような目でレオンを見下ろしました。


「レオン君。あなたが、魔王を倒す気がないのはもう、十分わかったわ。だからもう、あなたには何も期待しない。わたしは……あなたに頼らないで武勲を上げることにする。そして、お父様に認めてもらうの……」


 そう言うと、リリィはすたすたとクズ勇者に背を向けて歩いていきました。

 どんどんその姿が小さくなっていきます。

 リリィは、よくわからないですけど……家の人に認められたいから、こういうことをずっとしてきたんですかね?


 ほぼその姿が見えなくなったという頃合いで、レオンがすっと顔を上げました。


「ふっ、リリィ……。てめえ……。ただの『ファザコン』だったんじゃねえかよっ! クソみたいな親子のしがらみに俺を巻き込むんじゃねえええッ!」


 もうこの距離だったら聞こえないと思ったのか、レオンはそんなふうに絶叫しはじめました。


 すると……いなくなったと思われたリリィが全速力で駆け戻ってきます。

 うわわわわ!

 あっという間にさっきの場所に舞い戻ると、ゴン! と、勇者の脳天に力いっぱい鉄拳をお見舞いしてきました。


「うぐっ! がああっ!?」

「レオン! わたしのことは、なんてののしってもいいわ。でも、お父様の悪口だけは許さないッ! 次に言ったら、あなたがたとえ勇者でも、このレイピアで刺し殺すからねッ!!!!」


 うっ、こ、怖あああ……っ!

 悪魔もビックリの恐ろしい形相です。パタパタとのんきに飛んでいたクラーラさんも、リリィのあまりの気迫にわたしの胸の谷間にもぐりこんできました。


 え? 胸の谷間?


 そういえば、いつの間にかわたしにそんな「素晴らしいもの」ができていますね。ちょっと感動!

 でも、やだ。あ、あんまりその……う、動かないでください!

 くすぐったいというか、あの、へ、変な感じに……。ああっ!


 わたしがそんな風に身もだえしていると、リリィはフンッと鼻を鳴らしてまた去っていきました。

 後には地面に倒れている勇者のみ。


 いよいよ、勇者のハーレムが終わりを告げたようです。

 わたしはついに目的を達成したのでした。

勇者王都出発→フツカ村の森でネモと会う→ミッカ村でリリィと出会う→ヨッカ村で奴隷のアザレアを買う、という流れでした。

ちなみに七日ぐらいかければ王都→魔界につきます。

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