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第15話 アザレア離脱

「ねえレオン君、本気なの? 本気でわたしたちと離れること考えてるの?」

「…………」

「ねえちょっと、なんとか言ってよっ!」


 リリィが勇者の襟首を掴んでゆさゆさと前後にゆすっています。

 わたしとクラーラさんは姿を消したまま、すぐ側で勇者たちのやりとりを眺めていました。


「レオン、あの魔女様を……どうしても手に入れたいんだね? あたしたちと別れることになっても……そっちを選ぶっていうのかい?」

「…………」

「魔王を討伐するなんて嘘、いつかバレるよ。そんときあの魔女様が、あんたに危害を加えないっていう保証はどこにもない。それでもかい?」


 アザレアが珍しくまともなことを言っています。

 その「忠告」にも、勇者は黙ったままです。


「はあ……。あたしはさー、さっきも言ったけど、魔王討伐とかはどうでもいいんだよ。でもさ、あんたと一緒に旅していたら、きっとイイコトがあると思ってついてきてたんだ。あんたは一応勇者だろう? だから、目立つあんたといたら、いつか弟のツツジと会えるかもしれないって……」

「え? アザレア? なに、言ってるの?」


 アザレアの言葉に、リリィが首をかしげています。

 勇者レオンも不思議そうな顔ですね。

 というか二人とも……これは初めて聞いた話なのでしょうか。


「そうさ。あたしは、あんたたちを利用した……。生き別れの弟を探すためにね」


 なんということでしょう。

 アザレアが勇者たちと旅をしていたのは、単に「魅了」されてただけではなかったようです!

 

 あ、それはネモちゃんも同じ……でしたね。

 勇者に好意を抱いてもいたと思うのですが……他にも理由がありました。

 だから……彼女たちはこの森の中に入っても、勇者と一緒にい続けられていたわけですか。

 なるほど。


「アザレア。弟って……あなた、ヨッカ村で会った時にはそんなこと一言も」

「ああリリィ、すまないね。あんたたちが、奴隷商からあたしを買ってくれたのには感謝しているよ。でも、弟は……きっとまだどこかの奴隷商の元で売られているんだ。それかもう、誰かに買われてしまったか……。とにかくあたしは」

「ちょ、ちょっと待って!」


 リリィはいきなり重い告白をはじめたアザレアに、ストップをかけました。


「どうしてそんな重要なこと、今まで黙っていたのよ?」

「? どうしてって、話したって仕方ないだろう? なんて奴隷商の元にいるのか、どんな相手に買われて行ったのかすら、わからないんだから。方々の村を回って、地道に聞き込みしていくしかないじゃないか」

「そ、それで……ときたまふらっといなくなっていたのね!」

「そういうこと」


 なんだか話が勝手に進んでいってますが、つまりこういうことですかね。

 アザレアはヨッカ村というところで奴隷として売られていた。それを、勇者たちが買うことで助けた。その後、アザレアは勇者たちと旅をすることになった。でもその目的は、勇者のネームバリューで寄ってくる人たちから弟さんの居所を聞き出すため。


 はー、なんだか波乱万丈な人生です。

 ぽやーっとしたあの見た目からは想像つきませんが、アザレアはそうとうな苦労人だったんですね。


「レオン、だからさ、あんたと離れるのはちょっと困るんだよ。あたしがまだ、あんたの奴隷だっていうのもあるしさ。離れるんならこの『主と奴隷』の関係も、けじめをつけなきゃいけない。さあ、どうするんだい。レオン?」

「…………」


 レオンは黙ったまま俯きました。

 三人の女の子の中では、アザレアが一番魅力的です。胸もわたしと同じくらいありますし、顔もめちゃくちゃ美人さんです。踊り子だからか、スタイルも抜群ですし、なによりこの森の中で有効なスキルも持っています。


 それはまあ、悩みますよねえ……。

 勇者はまた、うんうん五分くらい唸った後、ようやく決断しました。


「……わかった。アザレア、君を解放する!」

「え?」


 ぽかんと、リリィが口を開けています。


「話を聞いたときは驚いたが……きっとその方が君のためになるだろう! 君はもう、俺の奴隷じゃない。自由だ。どこへでも行っていい。俺と一緒にいなくっても、きっと君なら弟さんを……」

「…………」


 一瞬の沈黙の後、盛大に平手打ちの音が森に響き渡りました。

 パアン!

 そして、ギャアギャアと謎の鳥が上空へと飛び立っていきます。


 あわわ。勇者の左ほほには真っ赤な手形が……。

 打ったのは、もちろんアザレアです。


「あー、あーあーそうかい! レオン、解放してくれて本当にありがとうよ! あんたがいなくったって、あたしはちゃあんと一人でツツジを見つけ出してみせるさ!」


 そう言うと、今来た道をアザレアはずんずんと引き返していきました。


「ちょ、ちょっとアザレア! ほんとに行っちゃうつもり? 一人で行くなんて危険じゃ……」


 リリィが心配して呼び止めますが、アザレアはさらに歩くスピードを上げ、変わった歩調で進み始めました。

 スキップをしながら、ときたまくるりとバレエダンサーのように回転しています。


「大丈夫! あたしにはっ、この舞踏の技が、あるからね! 大抵の相手ならっ、これで……回避していけるよっ! リリィ、短い間だったけど、さよならだ! そいつのことは……いや、もうどうでもいいや! じゃあなっ!」


 くるくると楽しげにスキップをしながら、アザレアは森の奥へと消えていきました。

 あとには呆気にとられたリリィと、なんだか少し落ち込んでいる勇者レオンだけが残されます。


 リリィにビンタされたのがよっぽど堪えたのでしょう。

 まあ、わたしでもあの状況だったらああしてましたね。

 レオンは痛む左頬をさすりながら、リリィをじっと見つめていました。


「な、なに、レオン君?」


 陰鬱な表情の勇者に、なにか不穏なものを感じ取ったのでしょう。リリィはひくひくと口の端をひきつらせていました。


 次は、たぶんリリィの番です。

 わたしとクラーラさんは、ワクワクしながらそれを見守っていました……。

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