転生王子は平民になりたい
お久しぶりです、友人に見せる予定だったものをこっちにあげます。
色々とガバってますが何卒よろしくお願いします
「アリエス!君との婚約を破棄させてもらう!!」
僕は力強く言って、目の前にいる美少女に指を突きつけ宣言し、心の中で歓喜していた。
ここまで長かった……バレないように小細工しつつ、しかしある程度は目立つようにもして、僕の評価を変えつつ彼女に危害が及ばないようにもした。
そして今日は!僕は念願だったこの日を迎えこのまま順当にいけば『平民』になることができる……!
そもそもの始まりは、ここは日本ではなくいわゆる異世界であること、そして僕がその日本から『転生』したというのを知ったときからだ。
なにせ生まれた瞬間には意識がはっきりしてたもんだから色々悟った。
そして幼いながらに色々な情報を聞くことができた、僕のこの世界での名前は『リーブ』、そしてこの世界、なんと魔法が存在するんですよ。
そしてなにより一番驚いたのは僕の生まれた家、この国の王家だった……。
僕は前世のことなんて殆ど覚えてないけど、覚えている範囲での僕は、目立つことなく平穏に暮らしたいと思っていて、今もそう思っている。
それに僕が国王なんてものになった日にはこの国が終わっていしまう。
そんなわけで僕はどうにかしてこの国の王子という立場から脱することを考え始めた……。
まず真っ先に思いついたのは僕に兄弟ができることだった。
だが、これは今の母が体力的に無理なようだったので断念、流石に誰かを犠牲にしてまで (しかもこの世界での母親)逃れようとは考えられなかった。
その次は人攫いに遭うことだったが、これは人生から脱却しそうだから却下。
ここまで考えて単純に継承権を破棄すればいいのでは?と思ったがこの国、世襲制度だから何か正当な理由がない限り継承権を放棄できないようだ。
逆に言えば正当な理由さえあれば放棄できいるのだが、如何せん僕の頭では思いつかんかった……。
何も考えつかずに日々が過ぎていき、いたそんなある日、僕は一人の女の子と引き合わされた。
「初めましてリーブさま。私この度あなたの婚約者となりました、アリエス・ピューリエと申します」
そんな自己紹介をしながら綺麗なお辞儀をしてみせた美少女。
アリエスはこの国の公爵令嬢で、とても聡明で器量がいい……と親同士で自慢しあっていた。
そんななか僕はアリエスの顔を見て初めて前世のことを思い出した。
それは妹から借りた小説だった。
内容はネット小説を書籍化したもので、婚約破棄ものだった。
そして同時に思った、これは使えると……。
「あの……リーブさま?」
「……あぁ失礼しました。とても綺麗な方なのでつい黙ってしまって……」
「えっ、あ……ありがとうございます……」
しめしめと考えているとアリエスに心配されてしまい、思ったことを適当に口にしたら顔を真っ赤にして俯いてしまった。
彼女が言葉に詰まっている間に妹の小説が何がどう使えるのか説明しよう。
小説の大まかな粗筋を言うと、悪い令嬢に騙された王子様が令嬢に言われるがまま横暴の限りを尽くし、最後には婚約者であった令嬢を婚約破棄をしたが、王子は令嬢の反論に返り討ちにあって悪い令嬢は捕まり、王子さまは罰として平民に落とされてしまった。そんな話し。
平民にされてしまったのだった、そう平民にされてしまったのだ、もう一回いう、平民にされたのだ!大事なことだから三回いった。
都合よくいけば平民になれるかもしれない!
しかしまぁ、問題は都合よくいけば、という結構キツい条件が入る……が、これが意外にもうまくいきそうなのだ。
と、言うのもアリエスと会ってからさらに数年経ち、僕たちは学校に入学した。
その時とても都合のいいことに二人の女の子と知り合った。
伯爵令嬢のレオーネ、そして男爵令嬢シュティア、二人は学校で知り合った友人同士なのだそうだ。
何が都合がいいのかというと、なんとまぁシュティア嬢を使ってレオーネ嬢が俺を嵌めようとしていることが僕付きの部下からの情報でわかったのだ。
シュティア嬢、男爵令嬢だが見た目はとても可愛らしい容姿をしていたため他の子息たちから人気があった (本人は困っていたが)、レオーネ嬢はそこに目をつけたようで、自分を介してシュティア嬢が王子に好意があると、あることないことを吹き込んできた。
しかもレオーネ嬢、他の重鎮の息子たちもシュティア嬢を利用して操っているっぽい。
「お前……なんでいつもシュティアさんと一緒にいるんだ?好きなのか?」
「うんにゃ、友達としては好きだけど恋愛感情はないぞ」
「はぁ?じゃあお前、何でアリエス様のこと放って二人でいるんだよ?」
そう言ってきたのは僕の親友と言っても過言ではない宰相の息子のトラゴス、宰相の息子という立場もあって僕に対してもとくに畏まることなく接してくれる。
僕は計画をより確実に成功させるためにトラゴスには僕の計画を全て話して協力させることにした。
「……お前。」
「みなまで言うな、最低なことをしているのはわかっているんだ」
全てを話し終えてからの親友の目が非難めいたものに変わっているので先に言っておく。
僕がやってることはシュティア嬢を利用して自分の望みを叶えようとしているだけで、その途中でレオーネ嬢を一緒に告発して道ずれにしてやろうと考えてる程度だ。
しかし、そうまでしても俺は王子さまという『役職』を辞めたい、それに彼女も今回のことで貴族と関わると碌なことがないと思ってくれるかもしれない。
「……はぁ、わかったよ。それで?俺にここまで話したんだ、何か手伝ってほしいんだろ?」
「さすが、よくわかってらっしゃる」
付き合いが長いだけのことはあるね。
トラゴスにお願いしたいのは周りの根回しと情報操作、俺がシュティア嬢にベタ惚れしていることとか、あとアリエスが冤罪だって証拠を渡しておこう、事前準備はバッチリなのだ。
便利な友人を持つと楽でいいね、平民になっても友人でありたいものだ、王子でなくなった僕を友人としてくれるかは自信ないけど。
「お前……ここまで用意してる暇があったら別の方法模索しろよ」
「模索した結果がこれだ」
「……あっそ。まぁいいや、お願いは聞いてやる、但し俺の方法でだ」
むしろお前の方法が一番いいよ、僕が下手な介入しておかしくなったら目も当てられん……と、この時はそう思っていた。
とまぁその他諸々様々な下準備をした上で今日という日を迎えた。
場所はできるだけ多くの目に俺の醜態が晒せるように卒業式後のパーティーを利用させてもらった。
そして役者が全員出揃いアリエスが僕に挨拶にきたタイミングで作戦実行、冒頭に至る。
突きつけた指先で僕のことを無表情で見ているアリエスと僕の横でオロオロしているシュティア嬢、そして少し離れたところで隠す気もなく悪い笑みを浮かべているレオーネ嬢。
「リーブ様。その言葉、間違いないですか?」
「あぁ間違いない!俺は君との婚約を破棄し、ここにいるシュティア嬢と改めて婚約する!」
よしよし、ここまでは順調だ、何も知らないシュティア嬢は僕の発言にびっくりしているけど……後で何かしらお詫びぐらいはした方がいいよね?
しかし、ここから先は僕にはどうしようもできない、アリエスが何もせずに受け入れることは考えられないけど万が一それをされてしまったらここまでの苦労が水の泡となってしまう。
そんな僕の心配は杞憂に終わって、彼女は反論してくれた。
「リーブ様、なぜ婚約破棄を申しだされたのかを、まず説明してください」
「君がシュティア嬢にした数々の嫌がらせ、知らないと言わせない。そんなことをする女性とは結婚できない」
「えっ!?あれをアリエス様が……?」
シュティア嬢が本気で驚いたような声を出している、というより本当に驚いてるんだろうなー彼女にもなんの説明してないし、後でちゃんと謝ろう。
あ、ちなみに嫌がらせ自体はホントにあった。主犯はもちろんアリエスじゃないレオーネが手下を使ってさせていたらしい、そしてそれをレオーネは……
「リーブさま……私みてしまったのです。アリエスさまがシュティアの私物に……うっ、うぅ……」
まるで見ましたと言わんばかりによよよと泣き(演技)しながら訴えた。
なんでお前がそんな悲しんでるやと言いたくなったがグッとこらえて最後まで聞き、信じた振りをした。
もちろん裏でちゃんとトラゴスと一緒に事実確認をしたよ、物証もあるし。
「レオーネ嬢、証言をお願いできるだろうか?」
「はい、リーブ様。私みてしまったのです……」
よくよく聞くといじめ当事者しか知らないようなことをポロッと言ってるけど誰も気づいてないようで安心した。
一通り証言が終わったところでレオーネ嬢がその場を去ろうとしたが「もう少し証言してもらうことになるかもしれないからとどまってくれないか?」と言ったら渋々といった感じを表に出さないように了承してくれた
「聞いた通りだ、アリエス。証拠は上手く消したようだが証人はいたのは誤算だったようだな」
全てが終わるまで悪役やってないとイカンのだが、意外と辛いものがある。
元来そういうことを言わないし性格でもないしちょっと恥ずかしいし心が痛いし。
「……お疲れ様でした、リーブ様」
「……え?」
何でこのタイミングでお疲れ様?ん?あれ、何か狂った?
「レオーネ様、残念ながらあなたの証言は信用に値しません」
「……なんですって?」
んん?流れ変わったぞ、いや流れ自体は問題ないし予定した流れなんだけどお疲れ様の一言が全てをおかしくしている。
とても嫌な予感がする……。
「シュティアさん、ごめんなさい。結果的にあなたを利用する形になってしまって。その代わりといっては何ですが、あなたの望みを可能な限り叶えて差し上げたいとは思ってますの」
「え?え?」
「レオーネ様、お気づきではなかったのですね。リーブ様はあなたの企みをとっくに看破してらしたのです」
「なんですって?」
「えぇー……」
なんていこったい、誰よりも僕がびっくりだ。慌ててトラゴスを見るといい笑顔で返された、とても殴りたい気持ちに駆られた。
そんなことをしている間もアリエス嬢はどんどん話しを進めていった。
「リーブ様はとても素晴らしい方です。あなたの企みを一瞬で看破したにも関わらずあなたを確実に告発するために乗った振りをして、今日まで秘密裏に調べさせていたんですもの」
なぁんにもやってません、全てトラゴスに丸投げしてシュティア嬢と楽しく過ごしてました。
だからその僕を持ち上げる発言やめて、すっごい恥ずかしい!
「しかも演技ではなくシュティアさんと仲良くして彼女が傷つかないように配慮までしていたんですもの」
ごめんなさい!全て終わった後に謝ってお金渡せばいいかなとか適当な事考えてました!
「しかも一歩間違えば身勝手な理由で婚約破棄をした、という汚名と罪をかぶって処刑されてしまうかもしれないのに、それを堂々と実行してらして……」
マジで!?そこまで重い罪だったのか、それは予想外だった……。
アリエスさん、そんな尊敬の眼差しでこっち見ないで悪役やってた時以上に心が痛い……。
「う……嘘ですわ!!全てあなたの妄想でしょう!?」
ここで折れたら女が廃ると言わんばかりにレオーネ嬢が言い返すも、トラゴスが出てきてそれも封殺されてしまった
「いや、ここ物証もあるし、何だったら証言も用意できるが?」
そう言って持って来ていたバッグから写真 (の魔法版)を取り出して何枚かレオーネに見せる。
それを見たレオーネ嬢、青い顔をして表情を歪めるもすぐキッとトラゴスを睨みつけて抵抗する。
「姿写しの魔法は加工ができるはずです!これは捏造ですわ!!」
そうそうそんな名前、そして今言ったように前世と同じで一応加工もできる……結構な高等技術だった気がするけど。
「レオーネ嬢、これ何かわかる?」
「そ、それは私のペンダント……」
「そ、流石にこれは言い訳できないよね?これ盗難防止の魔法かかってるみたいだし」
「ど……どこかに落としてしまったようですわ、拾っていただいたようでありがとうございます」
推理物のドラマとかだったらもう観念してるのに中々根性がおありのようだ。
それに頭も中々回るようで。
「ところでレオーネ嬢、姿写しの魔法に加工したら調べれば一発でわかるそうだよ?今から信用ある第三者の魔法使いにお願いして調べてもらう?」
いや、それがあるならなんでペンダント持ち出したし、いじめるの大好きか。
「くぅぅ……!」
流石に観念したのか何も言わずに俯いて項垂れてしまった。
その様子を見たアリエスとトラゴスは頷きあって待機させていた兵士を呼び、レオーネは連行されて行った。
その場に残ったのはアリエス、トラゴス、シュティア、そして僕と周りの学生たち。
僕は計画が失敗したことに心で泣きつつ表は素面でいる、とりあえずトラゴスは後で殴る。
その後、僕たち今回の件の関係者は個室に移された。
「リーブ様、この度は大変お疲れさまでした」
「い、いや。私もまぁ……聞こえは悪くなってしまうがシュティア嬢と過ごしたのはいい勉強になったよ」
楽しかった、とストレートに言うと角が立ちそうだったので咄嗟に言い直した。
そう答えるとアリエスは「それはよかったですね、シュティアさん」と、なぜか答えた僕ではなくシュティア嬢に話しを振った。
振られた方は驚き戸惑って言葉に詰まりながら話している。
「え、あの、もしかしてこの間のお話ってこのこと……?」
「えぇ、もちろんですよ」
え?え?何々何の話し?
僕抜きで話し進めないで、怖いから。
「リーブよ?女性の青春をまさか利用するだけして終わり。なんてことするわけないよな?」
「だから謝り倒して満足のいく補償を出そうとしてるんだ。そしてとりあえず殴らせろ」
「お前に殴られるのはごめんだね。それよかそんな謝って金払ってはいお終い……なんて甘い考え持ってないだろうな」
「……やっぱ甘い?」
「甘い、プリンに砂糖と生クリームとカスタードと餡子と餡蜜をかけたものくらい甘い」
「それはもう味ごっちゃになって甘くないのでは……」
とりあえずめちゃくちゃ甘いことはわかった、じゃあどうすればいいのかなんてわからんが。
「あの子の願いを一つ叶えてやれ、それだけで大丈夫だ」
「……それだけ?」
「あぁ、それだけ」
その胡散臭い笑みはやめろ、身構える。
「あの……リーブ様」
「シュティア嬢。今回のことは巻き込んで申し訳なかった」
頭を下げたくなるが、王子と言う立場上簡単には下げられないので言葉のみの謝罪となった。
今回のことで僕が平民になる作戦は完全にご破算になってしまったのでまだ王子を続けなければならなくなってしまった。
それに対してシュティア嬢は首を小さく横に振って「いいえ」といった。
「レオーネ様は私を友人と仰ってくださったのですが……やはり幻想だったのですね」
貴族同士で友人関係はありえないそうですね。と自虐気味に小さく笑った。
「……そんなことはないと思います」
「え?」
貴族界のトップからの否定の言葉に変な声を出している。
「打算なしで友人関係、と呼ぶなんてことはできないかもしれませんが、お互いが友人と思っていれば友人と呼べるのではないでしょうか」
「ですが、レオーネ様はそう思ってはいなかったようです……」
「私はあなたのことを勝手ながら友人と思っていました」
そういうと、シュティア嬢は目を一杯に見開いて驚いてから、優しく微笑んで「ありがとうございます」と言ってくれた。
「あの……リーブさま。お願いがあるのですが」
「何かな?今回のことのお詫びもあるから可能な限り答えてあげたいと思ってるよ」
そう言ってあげると下を向いてしまうも意を決したように顔を上げて言った
「妾でも構いません!私をお側にいさせてください!!」
「…………。」
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「あの……リーブさま?」
「はっ!すまない、突然のことで思考が止まっていたよ」
いやいやいや妾って……僕平民になるから無理だよ、っていうか二人も奥さん持てないよ。
そう思って断ろうと口を開こうとしたらアリエスが近づいて来て耳元で囁かれた。
「平民なろう、なんて考えは早々に捨てて私たちと一緒に過ごしましょう?リーブ様」
「ふぁ!?」
「うふふ」
驚いて顔を離すととても怪しい笑みを浮かべていた、正直恐い。
恐怖で硬直していると再び耳元に近づいてきて話し続けた
「リーブ様、私はあなたどんな立場、どんな人物であっても私は立場を捨てあなたを追いかけ、共に添い遂げる覚悟も自信もあります。独り占めできないのは非常に残念ですが、まぁ立場上仕方ありませんから、ですが正妻という立場だけは譲りません。あなたの一番は私です、たとえ何度生まれ変わろうとも、ね」
アリエスってこんな子だっけめっちゃ怖いんだけど誰か助けてほしいんだけどねぇちょっと、ていうか生まれ変わってもって言った?。
そんな俺の心情が伝わるわけもなく僕から顔を離していつもの笑顔に戻ると「シュティアさん、おめでとうございます!リーブ様が許可してくださいましたよ!」とか言ってないことを堂々と言っている。
その後、何回か平民になろうとしてみたものの全てアリエスに阻止され、そのまま捕まって監禁一歩手前の扱いになって僕は諦めた、今ではアリエスとシュティアを奥さんにして、トラゴスに手伝ってもらいながら何とかやっていけてます。
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