ピンチ
「他に誰かこっちの世界に来ていないのか?」
凛は腕を組み少し考えるポーズをとる。その時ふたつのスイカが持ち上げられて目のやり場に困るからやめてほしい。
「私がこっちに来た時は私以外誰もいなかったよ」
「そうか。それよりお前こんなことしててもいいのか?」
「大丈夫、私達の愛を邪魔しようとするやつらは皆殺しにするから」
「愛が重い!!」
「それで今日はどうするんだ」
「もちろんお兄ちゃんと一緒にいるよ」
凛はそういうと俺の腕に抱きついてくる。可愛い奴め。決してシスコンではないぞ。
「じゃあちょっと付き合ってくれ」
「え!私と付き合ってくれるの」
「そっちじゃない」
薄々こういうのではないかと思っていたが案の定言いやがったぞこいつ。
♢♦︎♢
「お兄ちゃん話と違うんだけど」
「何が違うんだ?」
「デートって言ったじゃん!」
「そんなことは一言も言ってない!」
俺は凛に軽くチョップをくらわせた。凛は大げさに頭を抱える。
俺たちは今、町のすぐ横の草原で魔物と戦う練習をしに来ている。
凛はゴブリンを何体も軽々と倒している。それにひきかえ俺は一番弱いと言われているスライムに大苦戦。
「この野郎なかなかやるな」
「キュイ」
スライムはまるでお前もなかなかやるなと言っているようだ。どちらも最弱なんだが。
俺は正面からスライムに斬りかかった。しかしスライムは柔らかい体で剣を受け止める。俺はそのまま力を入れスライムと力勝負をする。俺とスライムの力の差は互角、かなりいい勝負である。
俺はスライムとの死闘を繰り広げていると後ろからほんの少しだけ殺気を感じ振り返る。しかしそこには妹の凛しかいなかった。俺は自分の気のせいだと思いまたスライムとの勝負を再開しようとしたとき俺の右腕が宙を舞った。
「いてぇえええええええええ!!」
俺はその時自分に何が起こったのか分からずただただ地面を転がり回った。
「ちょっと焦り過ぎて外しちゃった」
と言ったのは妹の凛である。もう一度言おう妹の凛である。
そう、俺の右腕を切り落としたのは実の妹である凛だ。
俺の腕があった場所からは血が流れ続けていたのですぐに布で縛った。意外と冷静である。
「どういうことなんだ凛!」
「私ね、ずっとお兄ちゃんのこと殺したいぐらい嫌いだったの」
俺は凛の言っている意味が理解できなかった。いや本当は理解できているが俺自身がそれを拒んでいる。
「私ね、こっちでお兄ちゃんに会ったとき本当に嬉しかったの、これで私の手で殺すことができるって」
凛は魔法の中で一番威力のあるとされる技を繰り出す。その名はエクスプロージョン。爆発系の魔法である。
俺はまた死ぬのだと覚悟したとき、俺の前に透明な壁が現れ魔法から守ってくれた。
「間に合ったか」
「じいちゃんどうしてここに」
そう俺を助けてくれたのは初めてこの世界で出会った謎だらけのモーゼのじいちゃんだった。