「全くもう……じゅいぶんと勝手なことをしてくれましたね、アキナしゃん」
あくる日、クリスさんに連れられて近くの井戸水で顔を洗ったり、朝食のパンを食べたりした後に、昨日と同じように団長のディーンさん、クリスさん、ルーカスさんの3人と俺とフユとで集まっていた。
「一部の冒険者から『ただ飯ぐらいをさせるな』って声が上がっていてね」
ディーンさんの言わんとしていることはわかる。
いきなりやって来た怪しい奴が好待遇を受けていれば不審に思うのも無理はない。しかも特に何かしてるわけでもないのだから怪しまれても仕方がないと思う。
「そういうわけで、格好だけでも何かしている素振りをしてもらおうと思ってね。クリスは反対してたんだけど、アキナちゃんの了承が得られてたらという制限付きで賛成してもらった」
「はぁ……」
要するに俺の返答次第ということである。
まぁ、波風立てるわけにも行かないし、格好だけといっているので無理をさせられることはないだろう。そんなことになっても、クリスさんが守ってくれそうだ。……男としては情けない限りなんだけど。
「とりあえず話はわかりました。ただ、戦いなんてしたことないんで何もできないと思いますよ?」
「その辺は安心してほしい。ここにいるメンバーで1つのチームにしたから、君はただ私たちの後ろをついてくるだけでいい」
なるほど。
クリスさんは数匹のゴブリンをあっという間に倒せるし、ディーンさんは団長ということでクリスさんよりもさらに強いのだろう。ルーカスさんだけはよくわからないけれど、ディーンさんやクリスさんの様子を見る限り弱い人じゃないんだろう。
(ディーンさんの案に乗るけど、いいよな?)
『なんだかこの人の掌の上で踊ってる気分ですけど、仕方ないですね』
それは俺も感じないでもないが、無視するわけにも行かない。クリスさんの実家という手がかりに近づけるならなんだってしようじゃないか。
俺はディーンさんに了承の旨を伝える。
「じゃあ、まずアキナちゃんのステータスを見せてくれないか」
「ステータス?」
はて、ステータスとはなんだろうか。ゲームなんかでは能力値のことを表す言葉だけど、ここは異世界だしそのままの意味なわけはないだろうし……、はっ、まさかスリーサイズとか? アキナちゃんのスリーサイズは公式発表の数値を把握してはいるが、つまりは今の俺の身体の数値を求められているわけで。ディーンさんはまともな人だと思っていたのに、ロリコンだったのだろうか。
「なんだか失礼なことを考えられている気がするけど、【ステータス】と唱えると自分の能力値やスキルが目の前に表示されるのがこの世界の常識だからね?」
「あ、はい」
なんだか俺が思っていたこととは違ったらしい。そんな様子を、クリスさんは半顔でディーンさんを睨み、ルーカスさんとフユは爆笑していた。失礼な奴らである。
とりあえず俺はディーンさんのいう通りに【ステータス】と言って見る。すると、目の前に半透明のゲームのウインドゥの様なものが現れ、そこには俺の名前や何かの数値が書いてある。ディーンさんが紙の様なものー羊皮紙だろうかーを渡して来たので、俺はそれに目の前のウィンドゥの内容を書いていく。
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アキナ ヒューマン
HP:100/100
力:1
防御:1
魔力:1
素早:1
スキル
・戦闘不可能 EX ・鑑定 EX
・守護者の主 EX ・????
称号
・無し
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まぁ、この姿のアキナちゃんはただの小学生の女の子だしこんなものなのだろうか? それにしたって弱すぎる気がするけど。
周りを見渡して見ると、騎士団の3人が信じられないものを見た様な顔をしていた。
「これは……マジか……」
「おいおいおい、ヤバイなこりゃあ……」
クリスさんに至っては絶句して何も話していない。
その様子に、俺は異常事態を覚えてしまう。
「えっと……これ、もしかしてヤバイの……か……?」
「ヤバイってもんじゃないな……」
ディーンさんが俺のステータスにある、あるスキルについて説明する。
スキル【戦闘不可能】。
名前だけを見れば戦闘行為ができないという意味になるが、できないわけじゃなく、実質的に不可能であるというのがこのスキルだ。
このスキルを持つものは、レベルが上がらなくなり、ステータスも一切上昇しない。ステータスが成長しないので、魔獣なんかのモンスターがいるこの過酷な世界では死にやすい上に、荷物持ちとしても役に立たない。
他のスキルを得ることはできるが、全てのステータスが1のままじゃそれも宝の持ち腐れになる。魔術のスキルを覚えても、肝心の魔力がなければ意味がない。
このスキルを持って産まれた子は、女神から嫌われた子、忌子として捨てられたりもしているらしい。
あまりのヤバさにゾッとする。
『あの子の仕業ですね……、あの子が与えた呪いがこのような形でスキルへと変化したのでしょう。余程アキナさんを追い詰めたいようですね』
フユも念話でそう伝えてくる。
「アキナちゃん、余程のことがない限りはステータスは他の人に見せないものだが、君の場合は本当に注意したほうがいい。特に……いや、これはまだいいか」
「そ、そうです! 本当に気をつけてくださいよ!」
ディーンさんが何か言いたげだったのだが、クリスさんが間に割って入って来て聞こえなかった。というかクリスさん顔が近いです。手をぎゅっと握られて逃げようにも逃げられないし。
とりあえず他のスキルについても検証しよう。他のスキルが使えれば、何か活路が見出せるかもしれないし。
まずは【鑑定】だろうか。
目の前のクリスさん……を勝手に見るのは悪いので、フユを見る。
ん、んん、何も起きない。もっと、発動させるイメージで……。
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フユ 魔獣
HP:800/800
力:70
防御:45
魔力:70
素早:60
スキル
・氷魔法 EX ・無し
・無し ・無し
称号
・無し
守護者に設定しますか? YES/NO
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見えた。というか、ウインドゥが出て来た。
同じLv.1なのに能力値が全然違うな……。やっぱりこの【戦鬪不可能】ってヤバいスキルなんだろうな。比べるとはっきりとわかる。
後、表示させたステータスの1番下に見たことのない選択肢がある。守護者って単語には聞き覚えがあるけれど、一体なんだろうか。
何か帰るためのヒントにつながるだろうと、後は何かあってもフユだしいいかとてきとうな感じにYESを押す。
『!? ちょ、なんですかこれっ!?』
そう言ったフユの身体が光に包まれる。
目が眩むほどの光が瞬き、やっと見える様になった俺たちの前にいたのは、俺よりもさらに幼い幼女の姿だった。
澄んだ水色のストレートの髪を靡かせ、頭の上には尖った犬耳、お尻にはスカートが持ち上がってしまいそうにフサフサの尻尾が生えている。濃いめの水色と白のコントラストが綺麗なエプロンドレスの幼女は、俺の前にとことこと歩いて来てこちらを見上げる。覗き込んだサファイアの様な青い眼がとても綺麗だ。
「全くもう……じゅいぶんと勝手なことをしてくれましたね、アキナしゃん」
「お前……フユか……?」
何が起きたかわからないが、フユはどうやら人間の姿になれる様になったらしい。