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「と、これがこの世界だと誰もが知る『勇者伝説』ですね」


「アキナちゃん、今大丈夫ですか?」


  フユが笑い転げるのを待っていると、クリスさんが戻って来た。

  フユの方を見て大丈夫かと言いたげな目をしていたが、放っといてくださいと言った意味を込めて首を振った。


「どうしたんですか?  やっぱりここから出て行けとか」


  騎士団というのがどういったものかはわからないけれど、警察とか軍隊のようなものだろうか。だとすればゴブリンの異常発生でここに来ていたのは任務ということで、部外者である俺たちは邪魔である可能性が高い。というか、たかだか数匹のゴブリンでビビっていた俺がいても邪魔でしかないだろう。

  そうなったらそうなったで出ていくのもやむなしとは思ったが。


「そうじゃないですよ。そういうようなことを言う人には怒っておきましたので」


  そうクリスさんは笑顔で言うが、どこか怒っているようでちょっと怖かった。邪魔者を置くことに反対する人がいたんだろうな……特に冒険者の柄の悪そうな人たちから。


「1人で不安なんじゃないかなって、ディー……団長に無理言って戻って来ました」


  ちろりと舌を出しながら言うクリスさんは、ゴブリンと戦っていた時と比べるとどこかかわいらしく感じる。

  クリスさんはそのまま俺の横に座り、フユのお腹を触り出した。

  ようやく落ち着いたと思ったフユが、くすぐったさから身をよじっている。念話で助けを求められたが、がんばれ、とだけ返しておいた。


「とりあえずゴブリンの騒動が終わるまではここにいてください。その後は一緒に王都に行きます。そうすれば何かわかるかも知れないですし」


  クリスさんの案は魅力的だったけれど、このままでいいのかと思うこともある。


(フユ、クリスさんの案に乗るのは問題なさそうか?)

『というよりも、乗るしかないですね。一人旅なんて到底無理ですし、王都に行けば何かヒントがあるかもしれません』


  フユはクリスさんの手から抜け出し、俺の膝の上でクリスさんを威嚇しながら念話でそう言った。確かに一人旅、一人と一匹旅か。それは無理だろう。キャンプすら碌にしたことがないし、この姿で野宿なんかはしたくない。何が起こるかわかった者じゃない。ゴブリンだったりのモンスターもいることだしね。

  そうだ、ヒントと言えば。


「王都に行くのはわかりました。後、クリスさんの知る限りで勇者とか魔王のことについて教えてください。元の世界に戻るヒントがあるかも知れないので」

「私が知ってることなんて、この世界に住んでいる人なら誰でも知ってるようなことなんだけど……」


  そう言って、クリスさんは語り始める。およそ200年前の、魔王の出現の話を。




  その昔、平和だったこの世界に悪い悪い魔王が誕生しました。魔王はその溢れる魔力で、世界中に凶暴な魔獣を放ちました。

  人々は魔獣に恐怖していました。魔獣の力は強く、より知恵を身につけた魔族といったものも現れ、人々はも打つ手がありません。

  そんな時でした。別の世界から1人の青年と、それに付き従う6人の守護者なるものが現れました。


  赤き盾の守護者。不動の大盾、ジルベルト・マスウェイル。全ての攻撃から味方を守り。


  黄の剣の守護者。剣帝、ディレグント・エルシュテール。あらゆるものを切り倒し。


  緑の鐘の守護者。鐘の聖女、ミレミア。その全てを癒し。


  青の弓の守護者。星弓のメサイディ・ハーレイン。眼に映るもの全てを撃ち落とし。


  紺の鎌の守護者。姿なき者、ルナイシス。暗躍し外敵を排し。


  紫の杖の守護者。無限の魔術師、リィーン・ガーデンハロー。魔術の粋を極め。


  そして橙の勇者。彼らを統べ、魔の王を滅ぼす。


  こうして世界は平和になりました。おしまい




「と、これがこの世界だと誰もが知る『勇者伝説』ですね」


  俺はクリスさんの語りに耳を奪われていた。話し終わると同時に思わず拍手までしてしまう。


「ちょ、ちょっと、そんな大げさですよ」

「いや、すっごい声綺麗で聞きやすかったし、話をしてるクリスさんも楽しそうでしたよ」


  そう言うと、クリスさんは顔を背けてしまう。もしかして照れているのだろうか。


「こほん、『勇者伝説』は一般的にはこれしか伝わってないので、あまり手掛かりにはならないかもしれないですよ?」

「うーん。あれ、最後の橙の勇者、この人だけ名前がなかったような」


  他の守護者と呼ばれる人たちは名前付きで紹介だったのに、肝心の勇者だけ名前がない。後は、魔王もだ。


「勇者の名前は記録が残ってないんですよね。うちの実家にもないですし……」

「実家?」

「ええ、気がつきませんでした?  盾の守護者、ジルベルト・マスウェイルは私の曽祖父なんですよ。私が生まれる前に亡くなられているので、会ったことはないんですけどね」


  これはかなり運が良かったのか。勇者の名前の記録はないって言っていたけれど、他に何か情報がクリスさんの実家にはあるのかもしれない。

  王都に行った後にでも、クリスさんの実家に寄らせてもらおう。


「さて、流石にそろそろ行かないとですね。今休んでいた分、夜の番ぐらいはしないと」


  そう言ってクリスさんは立ち上がる。


「アキナちゃんとフユちゃんはそこで休んでいてください。後でご飯も持って来ますよ。そのまま寝てしまって構いませんので」


  小さく手を振ってクリスさんは出ていってしまった。

  当然、俺とフユだけがその場に残される。


『アキナさんって運いいんですかね?  手掛かりになりそうな人と最初に出会えるなんて』

「総合で見たらマイナスだと思うけどな。姿形ごと変えられてるんだぞ」


  その後もフユと色々話したが、帰還の手がかりになりそうなことはそれ以上思い浮かばなかった。

  そうして夜寝る前のこと。


  ーースキルが解放されました。


  そんな声が頭の中で聞こえた気がしたが、睡魔には抗えずそのまま寝てしまったのだった。

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