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「アニメの続きが見れないしな!」


「モンスターの異常発生って……」


  俺はその言葉に思わず恐怖を覚えてしまう。

  村に来る前に襲ってきたあの化け物、ゴブリンのことを思い返す。あんなのが大量にいるとなると、俺とフユが2人だけで歩いていたんじゃどうにもできないだろう。

  思わず身体が身震いしてしまう。フユも俺の方を覗き込んで心配そうに見ている。

  すると、後ろから優しく抱きしめられた。見れば、クリスさんが俺を抱きしめていた。


「大丈夫ですよ。普通にしていても怖いでしょうし、ましてこんな小さな女の子になってしまったんだもの。怖くなってしまったっておかしくないわ」

「いや、その」

「言わなくてもいいですよ。私が守ってあげますから」


  片手でぎゅうっと力強く抱きしめ、もう片方の腕で力こぶを作ってみせるクリスさん。たしかにさっきまでは怖かったけれど、今は恥ずかしさの方が上回っている。後、力こぶを見せるのは年頃の女性としてどうなんでしょう。

  後頭部にふにふにと柔らかいものが当たる。思い返して見れば馬に乗っている時にもこの柔らかいのがあったっけ。抱きしめられている位置的に考えて、それは女性特有のアレであるわけで……。


「はは、顔が真っ赤だな、アキナちゃん」

「う、うるさいよ!」


  俺はそうやって虚勢を張るのが精一杯だった。

  この後すぐ、クリスさん達は他の騎士団の人たちや冒険者と協力しゴブリンを減らして来るということでこの場は解散した。

  俺とフユは見ての通り武器もなく、戦えるわけもないのでそのままテントに残っていた。


「さて……とりあえず、今の状況でも整理しようか」


  俺はそう切り出した。

  フユも首をこくこくと頷かせる。


『では、何から話しましょうか』

「俺たちのこの身体のことじゃないか」


  俺は元々男子大学生だったし、フユは女神で人型だった。少なくとも、2人とも元々の姿形とは違ってしまっている。俺はアニメキャラのあきなちゃんに。女神はそのアニメのマスコットキャラのぬいぐるみに。

  しばしの沈黙の後に、フユが念話で話し始める。


『恐らくは妹の、この世界の女神の仕業でしょうね。仕方がないこととはいえ、春人さんがあの子を怒らせてしまいこの世界に強引に来ることになったので、その影響でしょう。姿についてはなんでこんな姿なのか疑問はありますが……』

「もしかして……一緒に持っていたフィギュアとぬいぐるみが……?」


  思い当たるものはそれしかない。あの時たしかに、俺たちの周りにフィギュアとぬいぐるみも浮いていた気がする。


『恐らくはそうでしょうね。そうすると、元の身体から魂だけを抜いてこの身体に入れたのかもしれません。そうだとしたら元に戻れるかもしれません。予測でしかないので、断言はできませんけど』


  そう言ったフユは、どこか不安そうだった。


「どっちにしても、あの女神の元に行かないと元に戻ることも、元の世界に帰ることもできないってことだよな」

『そうなりますね……』

「だったら、取るべき行動は1つ。あのクソ女神に会うための行動をするだけだ。俺はこの身体のままこの世界で暮らすなんてまっぴらごめんだ」


  あきなちゃんの身体が悪いわけではないけれど、俺はあきなちゃん自身になりたかったわけではない。だから、元の身体に戻って、元の世界に戻るのが目標だ。そうしないと、


「アニメの続きが見れないしな!」


  俺はそう高らかに宣言する。

  フユはしばしポカンとした後、転げ回って大笑いしていた。その姿はとても女神には見えなかったけれど、まぁいいか。


『アニメが見たいからって、それ本気だったんですか!  てっきりあの子をバカにして言ってるんだと思ってましたよ!  あははは!』

「そんなに笑うことないだろ……」

『だってアニメが見たいからって!  今日日小学生だってそんな言い訳使わないのに、それが本気なんですよ!  笑っちゃうに決まってるじゃないですか!  あはははは!』


  フユはしばらくの間ひいひいと笑い転げた。俺はその様子を、不満気に眺めていたのだった。


ーーーーーー


  ディーン、クリス、ルーカスの3人はテントから出て作戦を立てる会議室へと向かっていた。

  ゴブリンの異常発生に対し派遣された彼らだったが、今は別件のことで頭を抱えている。


「ディーンよぉ。あの子、どうするつもりだ?」


  ルーカスは軽い口調でディーンに話しかけるが、どこか真剣な面持ちだ。


「どうすると言われてもな……これは俺の手に余る問題だろ」


  ルーカスは肩をすくめるが、ディーンの言葉の意味を分かっている。

  仮にアキナの話が本当だとして異世界からやってきたのだとしたら、この世界に置いて異世界、別の世界からやってきた存在といえば勇者である。

  ただ、勇者召喚はヴィヴォール聖教国にある召喚のための聖教会でのみ行われるものだ。ここ数年どころか、200年前の召喚以来異世界から勇者がやってきたということは聞いたことがない。

  それだというのにディカルディ王国の、それも王都からもはなれたこんな辺鄙なところにアキナがいるのはおかしいと、3人は理解していた。


「とにかく、今はゴブリンの方をどうにかしよう。その後で王都で陛下にでも会わせて対処してもらおう」

「ま、それが騎士団としては無難だな」

「君はどうするつもりなんだい?」


  ルーカスは腕を組み少し考えてから、妙案とばかりに口を開く。


「見なかったことにして、帝国の奴隷商館にでも売っちまうか」

「そんなのダメです!」


  クリスが大声で否定する。その声に何事かと、冒険者や騎士団の注目を集めてしまう。

  ディーンやルーカスがなんでもないと人を払い、追及されることはなかったが、クリスは機嫌が悪いままだった。


「いやいや冗談、冗談よ?  王都に連れってて陛下に保護してもらう。それで決定!  だから機嫌なおしてくれっての!」

「ふんっ」


  人知れず奴隷落ちになるのを防がれたのを、アキナは知るよしもなかったのだった。


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