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「聖女リリーシア様がそう仰られるのなら」


「カレン様!  お茶の味はいかがかしら?」

「美味しいわ。飲んだことない味だからちょっと新鮮かも」


  中庭に用意されたテーブルはまるでオープンカフェの席のようで。テーブルの上には、カップとケーキスタンドが置かれていた。あんなの漫画とかでしか見たことないよ……。

  準備を終えた私が慣れないヒールに蹌踉めきながら席へ座ると、アンネさんがすぐにお茶を淹れ始めた。かチャリなんて音1つせずに出されたお茶は、紅茶のような見た目ではあったけれど、今までに飲んでいた安物の紅茶なんかとはわけが違う、なんというか、本物を飲んだような気持ちになった。

  ケーキなんかも、元の世界に比べると甘さは控えめだったけれど、これはこれで紅茶の風味とよく合っている。


「けど、教会でケーキなんて良かったの?  なんだか私がワガママしているみたい」


  そう言った私の手を、そっと包み込んむリリーシア。なんでこう、近いかなぁ。いやってわけじゃないけれど、やっぱり恥ずかしいというか、その……。


「カレン様のためでしたら、これくらいワガママでもないですのよ?  ……と言いたいところなんですけど、これはちょっとした練習でもありますの」

「練習?」

「聖教国ではあまりこういうことはしないですけれど、王国や帝国の貴族の奥様やご令嬢の間ではこんなお茶会は日常茶飯事ですわ。そして魔王討伐の旅の折、どちらかは必ず通ることになりますもの。勇者様であるならば、こういうことにもお付き合いしないといけませんわ。私も聖女として、戦いだけでなくこう言った面でもサポートできるようにならないといけませんの」


  ふんすと鼻息荒く説明してくれるリリーシアは、やっぱり後輩とか子犬とかそういう言葉を連想させてくる。

  けど、お貴族様とのお茶会かぁ……。


「ねぇ、リリーシア。帝国も王国も通らない道って……」

「海中に住む魔獣の相手を夜の寝る間もなく行いながら、半月も船の上で過ごせば魔王の島まで着くかもしれませんわ」

「お作法の練習します……」


  そう言って手に持っていたソーサーとカップをテーブルの上に戻す。


「カレン様のお意思が固まったようなので失礼ながら。ソーサーは手に持たず、カップのみを手にとってお飲みください」


  今までに話すことがなかったアンネさんから、そんな厳しい言葉が飛んでくる。

  ドラマか漫画でこうやってお茶を飲んでいたと思ったけれど、日本の知識は案外間違っているらしい。随分と顔に熱を感じてしまう。


「初めてのことなんですから、間違っても仕方ありませんわ。アンネも、もう少し優しく教えてあげるようにして?」

「聖女リリーシア様がそう仰られるのなら」


  そんな言葉だけで、アンネさんが優しく指導してくれるイメージが湧くはずもなく。これから作法の訓練も始まってしまうことに辟易しつつ肩をすくめるしかなかった。

  アンネさんがお茶のおかわりを用意する中で、リリーシアがそわそわとした様子で質問をしてくる。


「カレン様、カレン様のステータスは、一体如何程のものなのでしょうか……」

「ステータスかぁ……。ええっと……」

「ああ!  口頭で言わないでくださいませ!  どこで誰が聞いてるかわかりませんわ!」


  ステータスはあまり教えるものではなく、普通はこんな風に教えたりするものではないと、この世界のことを教えてくれる先生役の司教さんに聞いたことがある。

  つまり今のリリーシアの質問は結構不味いマナー違反なわけだけど、私は特に気にせず、ポロッと答えそうになってしまったいた。うーん、司教さんとかだったら答えるのを止そうと思うはずだけど、リリーシア相手だといいかなって思ってしまうのは私が甘いからなのだろうか。

  いつ用意したのやら、アンネさんが紙と羽ペンを用意していたので、そこにサラサラと書き込んでいく。


ーーーーーーーー



  カレン    ヒューマン


HP:3762/3762

力:2761

防御:1187

魔力:2319

素早:4672


  スキル

・勇者   C     ・雷魔術   B

・剣術   B     ・無し


  称号

・異世界の勇者


ーーーーーーーー


  書きあがったものを見てもらおうとリリーシアに渡そうとしたけれど、リリーシアは自ら椅子を移動させ私の横に座る。一緒に見ようということだろう。

  椅子が相当近い位置にあるからか、リリーシアのつむじが私の位置からよく見える。香油の香りだろうか、なんだかとてもいい匂いがする。


「雷の魔術のスキルなんて珍しいわ!  まるで剣……いえ、これは言わなくてもいいわね」

「リリーシア?」

「な、なんでもないですわ。雷属性なんて珍しいから、驚いてしまって」


  リリーシアがそういうのであればそうなのだろう。


「そうですわ!  そのリリーシア、と言うのも余所余所しいと前から思ってましたの!」

「そ、そうかな。けど、まだ会って数えるほどしか経ってないし……」


  相変わらずグイグイとくるリリーシアだけど、それを拒めないどころか、嫌じゃないと感じている自分がいるのにも驚いていた。ノーマルなはずなんだけどなぁ……。


「仲良くなるのに時間なんて関係ありませんわ。わたくしのことはリリィと、そう呼んで欲しいですの」

「じゃあ、私のことも様付けじゃなくてカレンって呼んで」

「勇者様にそんな無礼なことはできないのだけど……じゃあ、2人きりの時だけ。……カレン」


  上目遣いで首をこてりと曲げて、微笑んで私の名前を呼ぶ彼女のことを直視することができなかった。ただ名前を呼ばれただけだというのに、顔が熱を帯び、胸がドキドキしてしまう。

  この気持ちは、一体何なのだろうかと、自問をしても答えは見えなかった。

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