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「そういうわけには参りませんので」


  カキィン!

  剣と剣とがぶつかり合う音が響く。教会の敷地内にある訓練場で、聖教騎士団を相手に私は剣を振るっていた。

  あの後、リリーシアからこの世界のことを色々と聞いた。

  ここはヴィヴォール聖教国という国で、女神ヴィヴィアンシアと始まりの勇者エルシオールを祭り立てるヴィヴォール教という宗教から生まれた国だそうだ。教皇を中心とし、枢機卿や司祭たちが中心となりヴィヴォール教を広めながら、弱きを守るという始まりの勇者エルシオールの志の元行動を起こした国という。

  そんな国だから、騎士団という武力も存在する。それが聖教騎士団。白銀の鎧を身に纏った女神に剣を掲げた騎士達だ。

  そしてその中でも最も強いのが、聖教騎士団騎士団長、デリード・アクラエインである。


「……強い、ね」

「……」


  デリードは何も語らない。ただただ剣と盾を構え、こちらを睨むように見てくるだけだ。

  私は剣を構え直し、一呼吸置いてからまた動き始める。


「は、早い!」

「お前今の見えたか!?」

「見えるわけないだろ!」


  私とデリードとの訓練の様子を観戦していた騎士達がざわめき立つ。

  自慢ではないけれど、これでもたか兄と剣を合わせ続けてきたのだ。

  たか兄はどこで身につけたのかはわからないけれど、明らかに人間離れした力やスピードを身につけたいた。それに追いつくために、私もスピードを求めた。男女の力の差は理解している。力でたか兄に勝つのは限界があるとある時に気がついた。だから私は身軽さ、素早さ、スピードによる手数を身につけようと考えた。


「……!」

「かった!  聖騎士(パラディン)ってゲームとかじゃ防御がうまいイメージだけど、この世界でもそうなんだ……」


  これは後から聞いた話になるけれど、デリードは昔は騎士じゃなくて冒険者っていう魔獣を退治したりする職についていたそうで、その中でもトップクラスの実力を持っていたとか。その時から彼は剣と盾を手に、魔獣の群れの中に突っ込んでいき敵を引きつけ仲間の壁役をやっていたそうだ。

  時には何十体という大群や、巨大な魔獣とも戦りあっていたそうで、その防御技術は馬鹿にできない。

  現に、私は今一瞬で5連撃を放ってみせたけれど、デリードはそれを防いでみせた。ダメージは与えられていると思うけれど致命傷まではいかないし、何より今の私は5連撃なんて無理矢理放てばそれだけで体力的にきついものがある。


「……ここまで」

「……わかったわ。というか、もっと喋ってくれないと意思疎通が出来ないんですけど!」

「……」


  そんな私の意見は通ることはなく、デリードは踵を返して訓練場から出て行ってしまった。

  嫌われているわけじゃなくて性格的なものだとは聞いているからそんなに気にしてはいないけれど、なんとなくため息が出てしまう。


「カレン様!  お疲れ様ですわ!」


  パタパタと小走りでリリーシアが近づいてくる。手にはタオルを持っており、それを受け取って軽く汗を拭く。

  なんか、子犬っぽいというか、部活の後輩とかがいたらこんな感じなのかなぁ……。お兄がいなくなってからはそんなことにかまけている余裕はなかったからよくわからないけれど。魔王を倒せばお兄が戻ってくるかもという余裕がこう思わせるのかもしれない。


「ありがと、リリーシア。でも、この時間って聖女の仕事じゃなかったっけ?」

「カレン様のお世話よりも優先することなんてありませんわ!」


  そういうのって侍女さんの仕事なんじゃないかな……。現に侍女さんが苦笑いしてるし。

  この世界に来てから、なんだか申し訳ないほどに豪華な生活を送らせてもらっている。お風呂にまで侍女さんがついて来たときは本当に困った……。

  リリーシアとも仲良くなった。向こうからグイグイとくることもあり、聖女と勇者という関係から話すことも必然多くなる。


「いやいや、ちゃんと仕事はしようよ……」

「いいのですわ。仕事といっても司祭達の相手をするだけですもの……。そうだ!  今日は珍しい茶葉が手に入りましたの。いい時間ですしお茶にしませんこと?」

「お茶が終わったら仕事をするならね。着替えてくるから、先に行って待ってて?」

「準備して待ってますわ!  では後ほど!」


  リリーシアは優雅にお辞儀をして、淑女らしく、それでいて少し浮かれたように急ぎ目に訓練場を後にした。

  私も訓練用の皮鎧を外し、汗を流しに風呂場へと向かう。その後ろを、侍女さんのアンネさんがついてくる。


「アンネさん、お風呂は1人で入れるからね?」

「そういうわけには参りません。カレン様のお世話を、聖女リリーシア様より仰せつかっておりますので」


  有無を言わさないアンネさんに結局は流されてしまい、身体を念入りに洗われ、髪には香油などもつけられ、さらにはまるで自分がお姫様にでもなったような綺麗なドレスをあてがわれる。

  周りを見てもドレスなんて着ている人はいないし、リリーシアからしてかなり質素な神官服を着ている。なんだか自分が贅沢をしている気がして気が重い。


「アンネさん。いっつも言ってるけど、こんな綺麗なドレス私には似合わないから、みんなみたいな修道服とか神官服でいいからね?」


  今私が暮らしている聖教国の中央教会では、私が見る限り3パターンの服しかない。騎士団の着る騎士服と、侍女やシスターの着ている修道服。そして聖女や司教達の着ている神官服だ。デザインは色々とあるけれど、基本はこの3つだ。


「そういうわけには参りませんので」


  結局ドレスを着せられて、リリーシアとのお茶会に臨むのだった。コルセットが苦しい……。

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