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「いかがでしょう。少しは落ち着かれましたか?」


  知らない天井だ。ドーム状のだだ広く真っ白な天井が眼前に広がっている。


「おお!  成功だ!」

「聖女様の祈りが届いたぞ!」

「これでこの国も安泰だ!」

「勇者様万歳!」

「「「万歳!  勇者様万歳!」」」


  周りがごちゃごちゃと好き勝手に言ってくれている。女神が女神なら国民も国民かと、失礼ながらに考えてしまう。

  とりあえず起き上がると、それだけで「おおっ!」とか騒ぎ始めるので鬱陶しいことこの上ない。

  周りを見渡してみると聖職者のような格好の人が多い。異世界だから神官とかそういう役目の人なのだろうか。他にも神官服を装飾で飾ったさらに偉そうな神官団に、白銀の鎧を纏った騎士も多数いる。

  その中でも一際目立つのは、彼らが聖女と呼ぶ1番質素な神官服を着た女性だ。質素というか、白一色のみの法衣は逆に人目を引き、ベールで顔を隠しているのだけど下から覗いて見える顔はこの世のものとは思えないほどに美人な顔をしている。

  そんな彼女はこちらに近づこうと歩いてくる。その歩みを止めるものはなく、まるでモーゼのように人垣が割れ、1本の道となっている。


「初めまして勇者様。ようこそお越しくださいました。わたくし、今代の聖女を務めておりますリリーシアと申します。ああ、どうかわたくしと共に魔王を倒すために力をお貸しくださいませ」


  いつの間にか私の側まで来てしゃがみこみ手を取ってそう告げる彼女に、私はただただ辟易するだけだった。


ーーーーーーーー


「いかがでしょう。少しは落ち着かれましたか?」

「あ、はい。ありがとうございます」


  聖女リリーシアの言葉に何も返すことができなかった私は、召喚されたばかりで気が動転しているのだろうとそう受け取られ、一先ず召喚の間(先ほどまでいただだっ広いホール)から応接室おnような部屋へと場所を移した。

  そこで紅茶を淹れてもらい、少し落ち着いてから説明しようということだそうで。

  けれど、私の気持ちは全然落ち着かない。

  というのも、ソファーはテーブルを挟んで2つあるというのに、なぜか聖女リリーシアは私の真横に座っているのだ。一応1人がけのソファーだけど相当大きく、私とリリーシアが2人並んで座ってもすっぽりと収まってしまうのだ。


「このソファー、大きすぎて苦手なんです。ですから、勇者様とご一緒に座らせていただいてもいいでしょうか?」


  リリーシアは私の膝に手を乗せ、上目遣いでそんなことを言う。私は女子としてはそこそこ大きく158cmあるけれど、聖女リリーシアは私よりもさらに小さく140cm台だろうと思われる。従ってどうしても彼女と座ったままで目線を合わせると上目遣い攻撃を受けてしまうのだ。

  なんでかわからないけれど、彼女の顔が近いと妙にドキドキしてしまう。別にそっちのけはないはずなんだけど……。

  しかし、断る理由もないので最終的には押し切られてしまいそのまま話が始まってしまう。


「この世界には、この世の全てを支配せんとする魔王が数年に一度復活します。前回は200年前に復活しましたが、その時には異世界からやって来た勇者様とその守護者たちの活躍によって、魔王を倒すことができたと言われています。しかし、今また魔王が復活をしてしまうという予言を、聖女であるわたくしはしてしまいました。そこで、古の勇者召喚という儀式を使い呼び出された勇者がカレン様なのです」


  まぁ大筋はあの女神に聞いていた通りだった。魔王を倒すという大筋しか聞いていないけれど。


「我ら教団はかつて勇者様と共に旅をした聖女様を、そしてその後も歴代聖女を輩出している由緒正しき宗教団です。そして勇者様を呼び世界を救えとは我らが神からのお導きによるもの。わたくしも勇者様と共に旅出させていただきますので、是非とも、宜しくお願い致します」


  だから顔が近い。

  すでに唇が触れ合ってしまいそうな距離まで顔が近づいてしまっている。


「あ、あの、リリーシア、さん?  顔が近いんですけど……」

「まぁ!  すみません、わたくしとしたことがはしたない……」


  両手を頬に当ていやんいやんと身体をくねらせる様子を見るに、興奮状態にあったんだなと思う。

  そんな彼女のことを、なんだか嫌いにはなれず。お兄が行方不明になってからというもの、話をするのはたか兄ぐらいのもので、両親は多忙でそう多くは話せず。同級生なんかは哀れみや奇異の視線に耐えられず自分から距離を取っていた。

  そんな中で、素直な好意というものに当てられてしまったのだろうと思う。


「いや、謝ることじゃないけど……」


  私が怒っているとでも思っていたのだろうか。リリーシアはぱぁっと顔を綻ばせ、そしてパシッと私の両手を包んでブンブンと上下に振った。


「ありがとうございます!  勇者様とお近づきになれるなんて夢のようで……。わたくし嬉しくって」

「そ、そうなんだ」


  有名人なんかあったような感覚なのだろうか。私が有名人側というのもよくわからないけれど。

  けれど、ニコニコと笑うリリーシアは悪い人には見えないし、聖女と呼ばれているからにはきっとすごい力を秘めているんだろう。

  あの女神の言う通りにするのは癪ではあるけれど。お兄を取り戻すために、ここはリリーシアに力を借りたい。彼女の力と立場はきっと私の目的のためにもなるはずだろうから。

  けど……この過剰なスキンシップはどうにかならないかと。ぎゅっと両手を包んだままのリリーシアを、私は苦笑いで見つめ返すだけだった。

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