『アキナさん! パンツ見えてますよ!』
「えっと……その……」
俺は突然のことに面食らってしまう。一体何がいけなかったのか。どうしてそんなことを聞かれるのか。色々な考えが頭の中で駆け巡る。
思わずフユを抱きしめる力を強くしてしまう。
『ちょっ、痛いっ! 痛いですっ!』
「あっ、ごめんフユ……」
慌てて腕に入っていた力を緩める。けれど、混乱したままだ。
俺の様子を見て、見かねたクリスさんが口を挟んだ。
「隊長、いえ、ディーン。こんな小さい子を怖がらせないでください」
「いやいやクリス。俺だって怖がらせようとしたわけじゃ……」
「あなたは昔っからデリカシーがないんだから……大体あの時だって……」
なんでかクリスさんとディーンさんで口論が始まってしまった。クリスさんはすごい剣幕で怒っているけれど、ディーンさんは気にしていないように受け流している。
その様子に、俺はポカンとしてしまう。けれども、1人だけくっくと笑いながらルーカスさんが話しかけてくる。
「あー、あれはいつものことだ。俺も含めて、子どもの頃からの腐れ縁なんだけどな、あいつらいつもああやってケンカしてんだ。全く、飽きねぇよなぁ」
「へぇ……」
「ほら、そろそろ落ち着けよお2人さん。お嬢ちゃんが惚けてるぞ」
惚けてるわけじゃなかったけれどなぁ……。後、嬢ちゃんはやめてほしい。
けれど、ルーカスさんが2人をなだめたおかげで話が進みそうだ。
「こほん、すまないねアキナちゃん……だったかな? 怖がらせるつもりじゃなかったのだけれど、私としても事情を把握しておきたくてね」
「事情といいましても……」
実際のところ、どこまで話すべきなのだろうか。適当に話をして誤魔化すこともできるだろうけれど、そうするとよけいに怪しまれてしまいそうだ。
けれど、異世界からやってきて女の子になってます。なんてのも、簡単には信じてもらえないだろう。
一体どうしたらいいだろうか……。
『素直に話してみるのもいいかもしれません』
頭の中で声が響く。念話でフユがそう提案してきた。
(どうして?)
『信じてもらっても、適当に話を流されても、そこまで影響がないからですかね。何かしらの異変が起きた場所に現れた不審人物っていうのが変わらない以上、下手に嘘をついて怪しまれるより本当のことを言って信じてもらえない方がマシじゃないですか?』
たしかにそうかもしれない。嘘を突き通せるほど、ポーカーフェイスに自信もないし。
そう考えた俺は、ぽつぽつと自分の身に起きたことを話し始めた。元の世界でのこと。2人の女神のこと。自分自身のこと。この後どうしていきたいのかということ。
ただし、自分が勇者かも知れないと言うことは隠したまま。フユのことも、女神だとは言わなかったが魔獣ではないとは答えておいた。
「……と、こんな感じです」
全部話し終えた後の3人の反応は様々だった。
クリスさんはポカンとしているし、ルーカスさんは頭をガシガシと掻いてどこか後悔したような顔だ。
ディーンさんはといえば、何か考えているような顔つきだった。
「えーと、アキナちゃん、いや、ハルトくん?」
「あー、今はアキナで通そうと思うので、それで。ちゃんはいらないですけど」
「じゃあアキナちゃんで」
「なんでだよ!」
「いや、手にキスしたことを謝ろうかと思ったんだけど、よく考えれば俺も騙されたと言っても過言じゃないからね。歳もそんなに離れていないみたいだし、普通にしてくれて構わないよ」
そう言われると確かに強くは言えないけれど、被害者はやっぱり俺のような気がする。
納得はいかなかったけれど、どちらかと言えば忘れたい記憶なのでその話は頭の隅に置き、楽な姿勢へと座り直す。
座り直してからディーンさんの方を見れば、何やら俺から目をそらしていた。
俺が不思議に思っていると、ディーンさんが口を開く。それと同時に、クリスさんも再起動したのか慌てて声を出し、フユからも頭の中で念話の声が響く。
「アキナちゃん、楽にしていいとは言ったけれど、その姿勢はどうかと……」
「あああ、アキナちゃん!? スカート抑えて! ディーンは見たらダメですからね!」
『アキナさん! パンツ見えてますよ!』
クリスさんとフユのその言葉に、俺はハッとして姿勢を整える。ミニスカートなんて履き慣れていないからすっかり油断していた。いや、履き慣れていたらおかしいんだけれど。
「まぁ、少なくとも元男だってのは確信取れたかな。楽にしてって言った側から、スカートの中を見せてくる女の子はいないだろうし」
ディーンさんは言いながら苦笑していた。
俺は顔を真っ赤にさせてディーンさんを睨む。
「あんまり怖い顔をしないでくれよ。悪気があったわけじゃないんだし」
「まぁ……今のはアキナちゃんも悪いですね……」
クリスさんも若干呆れたようにそう言い、後ろでルーカスさんが笑いをこらえている。どうやら俺の味方はいないようだ。もっとも、味方をされても惨めなだけだったかもしれないが。
「とにかく、怪しいそぶりもないし、拘束したりといった必要もないだろう。もっとも、しばらくはむしろ私たちと一緒の方がいいだろうな」
「というと?」
俺はディーンさんの言葉に疑問を投げつける。一緒にいた方がいいというのはどういったことだろう。
「我々王国騎士団がこの村にきている理由でもあるのだが、今この近くでモンスターの異常発生が起きていてね。危険だから私たちと一緒にいた方が安全ということさ」
と、ディーンさんは笑顔で言うのであった。