「えぇ……。まぁ、いいか。よーし! それじゃあ『魔法勇者☆マジカルあきな』OPいっくぜー!」
「それで……なんでこんな騒ぎになってんだ?」
その日の夜、ルーカスとティーミリアに酒場まで連れてこられた俺とフユは、その光景を見て唖然とした。
そこでは何故か大宴会が開かれ、街の復興をしていたおっちゃんや魔物と戦っていた魔術師さんや例のお店のエルフのおねーさん達も何故か一同に介してのどんちゃん騒ぎだ。
よくよく見ればフーコーはエルフのおねーさんにお酌をされて顔をにやけさせているし、ポプリはがばがばと水だと誤認してしまいそうな勢いで酒を飲んでいる。
「アキナ、来た。一緒に飲む」
「も、モモ!?」
何故か給仕さんと同じ服を着たモモが俺の手を引っ張って席へと座らせる。何が何やらと思っている間に、テーブルの上には料理に飲み物、周りには人が大勢となんだか大変なことになっている。
ちなみに飲み物は果実水だった。俺もお酒が飲みたかった。ちくせう。
一杯飲むと、待ってましたと言わんばかりにモモがお酌をする。そんなにいっぱいは飲めないんだけど。
「もっとお世話、する」
ふんすと鼻息を鳴らしながら、タイミング待ちをしているモモ。
俺がそれに辟易をしているその横で、フユは両手で料理を食べてご満悦だった。彼女は本当に女神だったのだろうか。
そして落ち着いて見て見れば、クリスさんも果実水の瓶を持ってスタンバッている。貴女もですかそーですか。
「それで、一体全体なんの騒ぎだよこれは」
向かいで酒を煽るように飲むルーカスと、上品ながらもすでに結構な量を飲んでそうなティーミリアにどういうことかと尋ねてみる。
2人ともすでに酔いが回っていてまともな返事がもらえるかは怪しいところだ。
「何ってお前、戦勝会だよ戦勝会。主賓のお前がそんなに落ち着いててどーすんだ。いいから飲め飲め」
「いや飲め飲めって……ってまだ飲んでないから注ぐなモモ! クリスさんもスタンバッてないで止めて!」
なんかもうひどい騒ぎだった。収拾つけられないし。
兎にも角にもこのエルフの街フォーレスでの一連の事件、いったんの解決ということでお祝いを開いてくれたらしい。
……みんな好き勝手騒いでて別に俺いらないんじゃねーかって感じだけど。
まぁそれでも果実水は美味しいし、料理も、うん、トレント料理が多すぎだけど美味しいからよしとするしかないか。
「んで、モモはなんでそんな格好してるの?」
「こういうところでの、お世話の服。ティーミリアに教えてもらった」
「あんた何教えてんだ……」
純真無垢な子に適当なこと教えるのダメ、絶対。信じちゃうから。
しかし酔っ払いにそんなことが通じるわけもなく。「かわいいエルフね?」なんて押し切られてしまう始末だった。
どいつもこいつも酔っぱらいばかりで話が通じそうにない。
フユなんかは一通り食べたらもう寝てるし。自由すぎない?
「まぁ、いいか」
「いいかって何がだよ」
グラスを片手にルーカスが隣に来た。ちょっと酒臭い……うーん、この身体になったせいかそういうのも気にしてしまうな。
ルーカスはまるで酔っていないような態度をとってはいるが、よくよく顔を見てみると真っ赤になっていてしっかり酔っているのがうかがえた。
「いや、結構急いで旅をしてたところもあるから、こんな風にゆっくりと、みんなでワイワイ騒ぐのも悪くないなって思ってさ」
「そーいうことか。なら、開いてみて正解だったな」
くぴりと、グラスの中の酒を飲んでそんなことを言うルーカス。
「え、これお前の仕込みなの?」
「そうだよ? しばしの別れだからな。お前さんは知らないだろうが、この世界じゃ別れの前にはこうやって飲んで騒いで互いに元気でってやるんだよ」
「へぇ、そんなことをやるのか」
元の世界でも送別会なんてやるだろうから、それと似たようなもんだろうか。
そういえば所々で抱き合ったり肩を組んだりと、別れを惜しむような行動を取っているのも目に入る。それはきっと、そう言うことなんだろう。
「この街も半壊状態エルフ。出ていく者も多いエルフ。それは仕方のないことエルフ」
今回のそれは災害のような者だとティーミリアは言う。しかし、事実を知っている俺からしてみればあれは人災だ。色々と思うところはある。
けれど、それをただ悲しんでいる人はいない。生きるために、今できることを一生懸命やっているんだ。
だったら俺も、一緒に騒がないと野暮ってもんか。
なんか向こうで椅子とかを太鼓のように叩き始めた人までいる。少し混ざってこよう。それぐらいしてもいいだろうから。
「お! 嬢ちゃん飛び込みか! なんか歌えー!」
「そうだそうだ歌えー!」
「えぇ……。まぁ、いいか。よーし! それじゃあ『魔法勇者☆マジカルあきな』OPいっくぜー!」
「なんだかよくわからんがいいぞー!」




